第一話 王道学園に転生した

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「本当の熊は、殴ったら駄目だからな」  俺が殴った人は、そう言った。俺を咎めることもない。  3年の斎木蒼一郎先輩だ。  斎木先輩は俺の事情を聞くと、旗の設置を手伝ってくれた。 「結構です」と恐縮しても、静かに微笑むだけで黙々と旗を立ててくれる。  俺が1本取り付ける間に2本3本取り付けるから「慣れてるんですか」と言ったら、一瞬止まって。 「いや、差し込むだけだから」  真顔で答えられた。  すみませんね、不器用で!  先輩のおかげであっという間にノルマを終え、俺は先輩と帰路についていた。  多分、俺が野生動物にビビってるから、気を使ってくれたんだと思う。 「あの、先輩は、あんなところで何をされていたんでしょうか」 「あー」 「あ! 言いにくいなら言わなくても大丈夫です! 男には仕方がないときがありますもんね」  特に先輩くらいのイケメンになると、人目も多いから一人になれるのは藪なんだろう。  溜まるとツライのはよく分かる。 「誤解してるようだけど、多分、それ違う」  実は、この斎木先輩。生徒会の寡黙書紀なのだ。  涼しげな顔のイケメンで、もちろん攻略対象者の一人だ。  剣道部のエースでもある。  当然、さっきの俺のへなちょこ攻撃もさっとかわされていた。  親衛隊ももちろんある。 「抜くなら、トイレで十分だろ」 「親衛隊がトイレまでお供するって聞きました」 「なんだ、それ」  斎木先輩は、ぷっと軽く吹き出した。  それは、西条くらいだぞって。  え、生徒会長の西条会長はそうなんだ。ちょっと引く。  ゲームの設定では、斎木先輩の親衛隊は、寡黙で温和な先輩の人柄に合って穏やかな親衛隊だったはずだ。
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