3、いよいよお見合い

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 それからどうしてこうなっているのか?  あのあと、『化粧に興味ある? 真里さんにも化粧してあげますよ』と言われたかと思えば手を引っ張られていた。  どこ行くの? なんて疑問を浮かべているうちに到着したのは宿泊部屋。  えっと、こんな場所でなにするの……? 「ええと、雅さん?」 「少し動かないでください」 「はい」  目の前には大きな鏡。  鏡に映るわたしと、現物のわたしを交互に見比べながら雅さんはわたしの顔に何かを塗っていく。  されるがままにしていると雅さんは化粧道具を置いた。 「はい完成しました。どうかな?」  鏡に映るわたしはわたしじゃなくて……。  わたしなんだけど綺麗な女の子がそこにいる。 「これがわたし?」 「そうです。化粧次第で顔の雰囲気は変えられますよ」 「すごい! 目が大きく見えるし、そばかすどこいったの?」 「目はアイラインをひいて、アイシャドウで光と影を作るんです。そばかすは下地クリームとコンシーラでカバーすればいいんですよ。それからチークは真里さんの場合、ピンクよりオレンジ系がいいですね。ルージュはビビッドピンクよりコーラルピンクにしましょう」  へえ〜と聞くものの、化粧にあまり興味がなかったためか用語の半分も理解出来なかった。 「もしかして雅さんは化粧品会社の方ですか!?」 「え?」 「だって化粧品がこんなにたくさんあるし、アイシャドウだけでもいっぱい色んな色を持ってるし!」 「ああ、なるほど。でも違います」 「それじゃあメイクさんだ!」 「それも違います」 「え? じゃあ、なんだろ?」 「普通にメイクするのが好きなだけですよ」 「メイクが好き?」 「男なのにおかしいですか?」 「え? いや、そんなことは……」  ないとは言えないけど。  でも化粧をしている男の雅さんも、もちろん女の雅さんも格好良くて美しい。 「雅さんは似合ってるから……」 「真里さんも似合ってますよ」 「それは、……雅さんがお化粧してくれたから……」 「では、今使った化粧品を真里さんに差し上げます。おうちで練習してください」 「え……」  貰いたいけど、貰ってもいいのかな?  だけど化粧品が欲しいわけじゃない。 「あの、雅さん!」 「何でしょう?」  ふう、と息を吐いて心を落ち着ける。 「今度またわたしと会ってくれますか?」  化粧の仕方をまた教えてもらいたい。  それからもうひとつ。  雅さんのことをまだまだたくさん知りたい。  もうお見合いを成功させなければならないなんていう考えは頭の外。  雅さんの綺麗な赤い瞳に吸い込まれそうだと感じるのは、雅さんがゆっくり近付いているからで……。  ――えっ? なんで? 顔ちかっ!? 「それはまた二人きりで会いたいってこと?」 「ひえっ」  頓狂な声が出た唇に雅さんの長い指が触れる。  さっき化粧されてたときまでは触られても平気だったのに……。  顔が熱くなる。  すると雅さんは楽しそうに笑った。 「さあ、どうしましょうか?」 〈END〉
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