HOUSE

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HOUSE Ⅰ 〜一九八ニ年〜 鳥の囀りと木々の葉が風と戯れる涼やかな音の中に佇む、赤茶色の三角屋根の家。ミントグリーンに塗られた壁が爽やかなその家に住む家族は、いつも笑顔の花を咲かせていた。若い夫婦と幼い子供たち。幸福の衣を身にまとっていた家族は、運命のいたずらか、その衣を剥ぎ取られ、不幸の衣を着せられた。 この家に住んでいたパイアス=ホワイエとーその妻リタ。幼いふたりの子が忽然と姿を消したのは、物理学者アインシュタインが亡くなった一九五五年の四月のことだった。 当初かれらの失踪については、宇宙人による拉致説や死体なき殺人説など様々な憶測が飛びかっていたが、次第に忘れ去られていった。それから八年後。作家ヘミングウェイが亡くなった一九六一年七月。突如、消息不明だったパイアス=ホワイエが姿を現したのだった。 ※ ※ ※ どんなに名声を誇った者でも死に抗うことはできない。死の館への招待状はどの民にも必ず届けられ、おのずと館の扉が開かれる。それが人の自然の在り方だ。 今年、一九八二年。女優のイングリッド=バーグマンが亡くなった。二年前の一九八〇年には哲学者のサルトル、映画監督のヒッチコックが他界し、五年前の一九七七年にはフランスのオペラ歌手マリア=カラスが、イギリスの喜劇俳優チャップリンが、アメリカの歌手エルビス=プレスリーがこの世を去った。 彼らも死の館へ招かれ、神の審判を受けたに違いない。しかし。死の館を訪れることの出来ない者が存在するのも事実だ。
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