HOUSE

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他の部屋も確かめた。書斎になら脱出のヒントがあるかもしれないと、ロバートは血まなこになって探している。ヘレナも手伝ってはいるが諦めの気持ちが強かった。 書斎からも手掛かりは見つからなかった。 ロバートは悄然とした後、焦燥感に襲われた。まだ調べていない部屋の扉が勝手に開いた。ロバートとヘレナは廊下から中を見た。子供部屋だった。オルゴールの音色の子守唄が流れてくると、ゼンマイ仕掛けのサルがシンバルを叩いて、キィ、キィと啼いた。小さい子の跫音と笑い声。赤ん坊の泣く声。ジオラマの列車が動き出すと、ミニカーも走り出した。ワン、ワン、ワンと犬の吠える声がして、 「痛っ!?」 ロバートがふくらはぎを押さえた。ズボンを捲り上げて見る。動物の歯型のような傷が付いていた。犬に噛まれたのだ。 「居る。視えない者たちが」 ロバートは呟いた。 姿は見えないのに存在している。ヘレナは拳銃を取り出し構えた。 「よせ。相手を刺激するな」 「でも、」 ロバートは拳銃の上に手を置いた。不服そうな眼差しを向けヘレナは拳銃を下ろした。 ふたりは踊り場の壁を見た。吸い込まれてしまいそうな不思議な感じのする壁に、ガラスから差し込んでくる陽が反射して、うっすららと壁に玄関の扉が映った。 はたと、ロバートは思った。もしかしたら誰かがこの家を訪ねて来たとき、その人物と入れ代わることで、ここから出られるかもしれないと。 ヘレナは壁に映った扉を見つめ、ロバートと同じ考えに至った。 「入れ代わり」 とふたりは呟いた。その考えが合っているとは限らない。それでもそれに一縷の望みを託すことにした。
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