HOUSE

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HOUSE Ⅱ 〜一九八五年〜 一九八五年。西ドイツではオーストリアの音楽家アントン=カラスがフランスでは画家のマルク=シャガール、彫刻家のジャン=デュブュッフェ、歴史学のフェルナン=ブローデル、イギリスでは歴史家アーサー=ブライアントが、ソビエトではピアニストのエミール=ギレリスが他界した。翌年の一九八六年にイギリスの彫刻家ヘンリー=ムーアが亡くなっている。彼らは歴史に名を刻んだけれど、残った名前と残した作品は、生まれ変わった本人にさえも他人の名と作品でしかない。 著名人であれ一般人であれ、己の死後もこの世は変わりなく動いている。 見ていたテレビドラマの続きは死んだことで見ることはできない。けれど続きは放映されている。応援していた野球チームが優勝したのかしなかったのかも、わからないままだが、その結果は出ている。そうやってこの世は在るのに自分がそこにいないのだ。 親しかった友人のことも、愛していた恋人のことも、大好きな猫のことも忘れてしまうのだ。それは確かに切ないし侘びしいかもしれないけれど、決して死は厭うものでもない。そもそもこの世が幻のような世界なのだ。死は区切り目でしかない。幻の世界から天の国に居を構えるための道。 〝HOUSE〟に狙われたら、その望みを完全に断たれることになる。 ※ ※ ※ 怪奇現象を取材するライターに転向したばかりのスティーブ=パーカーは、三年前に起きた四人の若者の失踪事件を調べていた。しかしこの事件、奇怪でも何でもない、世間でよくある事件のひとつに過ぎないかもしれない。山で遭難したのかもしれないし、川に転落したのかもしれない。未だに白いワゴン車とそれに乗っていた若者が見つかっていないというだけで。
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