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スティーブの眼は本気だった。消息不明の若者たちとその家族を心配している。いくらホラー映画の心象がきっかけで、奇怪現象のライターになったとはいっても、人の命を軽く考えてはいない。命の重みはよくわかっている。彼の父親は一九六〇年から一九七五年のベトナム戦争に巻き込まれて死んでいる。
「パーカーさんは僕らの力になりたい、ということですか?」
スティーブは頷いた。ビルはマリィに目配せした。諦めかけていたけれど、何もしないよりはいい。自分たちは店の仕事でなかなか動けない。失踪している若者を捜しているというのなら任せてみようかとビルは思った。
「実は、母も失踪したんです」
「失踪ですか?」
「母の事も探してくれますか、パーカーさん」
「スティーブでいいですよ」
「では、スティーブ。母のこと、お願いします」
「あなた、」
マリィが渋い表情をした。マイクも不安になっていたがやめて、とは言えずマイクに言う。
「何もしないよりもいいかも」
「それもそうね」
息子の顔を見てマリィは呟いた。
マイクはチキンバーガーを完食した。隣のテーブルではエミリアが、ゆっくりとポテトを食べていた。サムは娘のその姿を撮っている。コークを飲みながらマイクは心の中で呟く。おばあちゃんは隣の家にいる。閉じ込められてしまったんだ。もしそれをパパとママに伝えたら、パパもママもおばあちゃんを助けに行こうとするだろうけど、パパもママも隣の家に行ってみたけれど、三年前の僕のように行き着くことができなかった。それからは、隣の家へ行くのをやめている。時間の無駄ってパパは言っていた。ママは一度、隣の家に行き着いたのに、と不思議がっていた。
よくわからないけれど、赤茶色の三角屋根の家は、とても気まぐれなのかもしれない。家に意識があるとすれば。
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