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「中を案内しましょう」
不動産屋は鍵を開けた。マイクは赤茶色の三角屋根の家へ視線を向けた、気のせいか、屋根がぐにゃっと歪んで見えた。
「マイク、入って」
ママに呼ばれて小走りで家の中に入る。不動産屋がリビング、ダイニング、バスルーム、寝室を案内する。ビルが二階の一室から外をー眺めた。
「なかなかいいな」
マイクの背丈では外は見えない。
「パパ、何も見えないよ」
ビルは息子の顔を見て、
「踏み台を作ってやるさ」と笑顔で言った。
「ほんと?」
「ああ、もちろんだ」
マイクはパパが約束してくれたから喜んだ。
ここが僕の部屋になるんだ。こっちにベッドを置いて、あっちに机を置いて、と頭の中で忙しいなく家具の配置を考えた。
「あなた、ここからの眺めも悪くないわ」
マリィは夫に声を掛けた。その部屋からは隣の家は見えない。
「ねぇ、僕の部屋からは何が見えるの?」
マイクは不動産屋に訊いた。
「きみの部屋からは木に止まっている鳥が見えるよ。それから隣の家も」
隣の家が見えると聞いて、好奇心がはたらいた。
「隣の家が見える部屋は、他にある?」
「ないよ。どうしてそんなことを訊くのかな?」
不動産屋は訊き返した。
「ううん、なんでもない」
マイクは応えて、パパとママの所へ行って訊いた。
「この家に決めるの?」
「そうね。これまで見た中では、静かで緑も多くていいわ。ね、あなた」
「うん。なかなかだ。僕の店からもそう遠くはないし。ただひとつだけ、道が入り組んでいるのが難点かな」と、ビルは言った。
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