HOUSE

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不動産屋は苦笑し、 「その点に関しては、見学に訪れた方たちが同じことを言ってました。」 と一度言葉を切った。それから、 「クーリッジさんの店を目印に、狭い路地に入って、最初の分岐点で左へ。次の分岐点で右。最後の三叉路で真ん中を進めばいいんです。左、右、中と覚えておけば大丈夫ですよ。家賃も他に比べてお安いですし、早い者勝ちですよ」 と言う。マイクは子供ながらにそれを聞いて釈然としなかった。これまで見てきた物件とさして変わりのない状態なのに、むしろ良い方かもしれないというのに家賃は安いし都市にも近い場所なのに。 「オバケ出ない?」 と言ったマイクにマリィは慌てた。 「何を言い出すの、この子ったら」 「こんなステキな家が安くて、ずっと空き家だったって、変だと思う」 マイクの疑問に不動産屋は笑って、幽霊は出ないと、あっさり否定した。 「マイク、きみは鋭いな。この物件を見学した人たちは、きみと同じ疑問を持って借りるのをやめてしまうんだ。だからいつまで経っても借り手がいないんだ」 「だったら僕らが借りようじゃないか。な、マイク」 「うん」 小さく頷いたが、どことなくスッキリしなかった。 オーエン夫妻はその家を借りると決めた。 ※ ※ ※ 「よくまぁ、あんなにも込み入った道を通るような所の家を選んだものね。ここまで来るのに何度引き返したことか」 ビルの母のセシルは愚痴を洩らす。マリィは道順を書いて送っておいたのに、なぜ迷ったのか不思議でならなかった。義母は惚けたのでは、と頭を過った。 「そうですか?細い道を左、右、真ん中と進むだけですけど」 「ええ。その通りに走って来たわよ。それなのに行き止まりになったりして」 「妙なこと言うなよ。そんなはずないだろ」 「あら、私が惚けたとでも言いたいの?」 「そうじゃないけどさ」 「まぁいいじゃないの。こうやって無事に着いたことだし」 マリィは言いながら、セシルの前に紅茶の入ったカップを置いた。 「それもそうね」 紅茶を一口啜って、 「お隣はどんな方が住んでいるの?」と訊いた。 「ほぼ空き家だって。まれに家主が泊まりに来ているらしいけど」 「そうなの。別荘代わりってとこなのかしらね」 と、つまらなそうに言った。
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