HOUSE

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「そんなことないわよ。ふつうにパテの味よ」 呑気な声で言った。ロバートは試しに口に含んでみた。数回咀嚼して吐き出した。 「妙な味だ」 「そうかしら?」 「食べない方がいいと思うわ!」と言うヘレナに、 「キースさんたちの好意よ。残しちゃ悪いわ」 ジェニファは自分の分を平らげた。まるで飢えた人間が、がっつくような食べ方はジェニファらしくなく、何かに取り憑かれているようだとヘレナは思った。 それにしてもジムがシャワーを浴びにバスルームに入ってからかなり経つ。心配になったロバートが声を掛けた。 「おい、ジム」 返事がないので、 「入るぞ」 とバスルームを覗く。 「ジム?」 間仕切りのカーテンを開く。バスタブに張られた湯がゆらゆらと揺れている。ジムは確かに湯船の中にいた。しかしその恰好が有り得ない形をしていた。両脚が背中の上に折り畳まれたように乗っている。両腕は肩から真後ろに曲がっていた。頸は一八〇度に向いていた。 「ジ、ジムっ!?」 ロバートは叫んだ。ジムがその恰好のまま、 「どうしたのさ」 と訝しげに言った。 「何かあったの!?」 ヘレナとジェニファはロバートの声に驚いて、バスルームに近付いた。 「いきなり大声で呼ばれてびっくりした」 ジムは笑った。ロバートには何が起きたのかさっぱりわからない。ヘレナもジェニファも、 「私たちもびっくりしたわ。驚かせないでよロバート」 と言って彼の肩を叩いた。 いったい今のは何だったんだ?ロバートは言い様のない不安にかられた。 「腹減ったな」 バスルームから出たジムは言った。 「それならパテをもらった。ひどく不味くて食べられたものじゃないけど」 渋い表情をしてロバートが言うと、 「私は食べてしまったわ」 ジェニファはしたを突き出し、唇をゆっくりと舐めた。舌にはまだパテの味が残っていた。気味が悪いとヘレナはジェニファを見て感じた。まるで別人のようだ。 「それじゃ俺も頂こう」 ジムはパテを頬張った。半分以上食べたところでカツン、と固い物が歯に当たった。それを手の平の上に吐き出した。
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