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たにやんに乗せられたとはいえ、渡りに船だ。星崎町の未来を託す少年たちの夢のためだ。翌日の昼過ぎ、お客さんが途絶えた頃、あかりはさっそくお弁当の新メニュー開発に取り掛かった。頭の中には大体のイメージは浮かんでいる。野菜とたんぱく質を組み合わせてパワーアップを狙いたいところだ。主菜は決めたが、問題は副菜だった。いくつかのパターンのうち、どれにするか決め手に欠いた。ちょうどそのとき、女子小学生三人がやって来て、キャッキャと話をしている。
「今日の拓実くんもかっこよかったわ~」
「わたしは彰くん。ゴール決めたときはヤバかった~。凪ちゃんは?」
「えっ、わたしは特に誰ってわけじゃなくて、みんなかっこええわ」
「俊也くんにしときいや。背も高いし、かっこええやん」
「えー」
「ええやん、俊也くん、ゴールキーパーって目立つやん」
どうやら先ごろ来た「星崎イレブン」の練習見学の帰りのようだ。
「いらっしゃい、何にする~?」
「ぽーぽー三つ」
「オッケー」
ぽーぽーを焼きながらあかりは訊いた。
「あんたら、星崎イレブンのファンなん?」
ポニーテールの亜矢美ちゃんが「いえ、わたしたちはサポーターです」ときっぱり答える。
「サポーター?」
「応援する人です」
「ああ、そうなんや」
「今、応援で歌うための歌詞を考えてるんです」
「へぇ~、すごいやん。ちょうどええわ。あんな、おばちゃん、拓実くんたちに頼まれて、お弁当のメニュー作ってるところなんやけど、試食頼んでええかな?」
亜矢美ちゃん、星子ちゃん、凪ちゃんの三人は快く引き受けた。焼き上がったぽーぽーとは別に、小皿ににんじんしりしりのアレンジ品4種を乗せて出す。せん切りのにんじんと一緒に炒め合わせる材料が違うのだ。
「豚ひき肉、シーチキン、カニカマ、タラコ。この四種類のうち、どれが一番好きか、教えてくれるかな?」
あかりはおずおずと食べ比べる三人をじっと見つめていた。
「うーん、わたしはカニカマかな」と星子ちゃんが悩みながら言うと、亜矢美ちゃんは、「わたしはタラコ」ときっぱり言った。
「凪ちゃんは?」
「うーん、どれもおいしいけど……」
「おいしいけど?」
「タラコかな」
「やっぱりタラコかー。ちなみにゴマ油じゃなく、島ラー油を掛けたのはどうやった?」
「イケてるんちゃう?」と亜矢美ちゃんに他の二人も同意し、にんじんしりしりタラコバージョンが完成した。
「さて、いよいよメインのご登場やな」
「なになに?」
あかりが冷蔵庫から解凍したグルクンを取り出すと、三人はまな板の側に寄ってきて、あかりが捌くのを興味深そうに見ている。
「お弁当には三枚卸しなんやけど、せっかく見学してくれてるんで、見た目にこだわってサービスするね」
あかりはそう言って、背中から包丁を入れ始めた。頭から尾までつながっている中骨の部分と身を二つに捌くのだが、片方の身は頭の部分だけとつながり、もう片方の身は頭と尾の部分でつながっている。
「これを百八十度の油でじっくり揚げると、まるで、飛んでるような形になるって、わけ」
「わ~っ、すごい」
「ホントに飛んでるみたいやわ」
「こんなん始めて見た」
女子三人組の喝采に、あかりは照れながらも手応えを感じた。
そして、いよいよお弁当の新メニューのお披露目となった。拓実くん、俊也くん、彰くんの前には「グルクン唐揚げ弁当」が置かれている。
あかりは蓋を開けて見せる。
「じゃ~ん、メインはグルクンの唐揚げ。君らの好きな紅芋コロッケもあるよ。にんじんしりしりにはタラコも入ってパワー盛り盛り! どや?」
「わ~、美味しそうや」「何から食べようか迷うなあ」「やっぱ紅芋コロッケやな」
「ささ、食べて食べて」
「いっただきまーす」
拓実くんはさっそくグルクンの唐揚げを口に入れて、「うまっ」と呟く。
「そやろ? 白身がふっくら揚がって、美味しいやろ」
「ほんまや、美味い」
俊也くんも頷く。
彰くんはマイペースに好物の紅芋コロッケを頬張っている。
「にんじんしりしりも食べてみてや」
「タラコと合ってる」
「そやろそやろ」
ジューシーおにぎりにデザートのミニカップ入りジーマミー豆腐まで、三人ともパクパクと食べて完食した。
「あ~、美味しかった」
満足そうな笑顔にあかりは安堵した。
こうして新メニュー「グルクン唐揚げ弁当」は完成した。
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