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地区予選を前に、練習試合が行なわれる日、あかりは朝早くからてんてこ舞いだった。スタッフや応援席の父兄を含めて五十個の注文が入っていた。
小夜子と二人でにんじんをせん切りにし、あかりはグルクンと紅芋コロッケを油で揚げ、小夜子はにんじんしりしりタラコを大鍋で作っている。盛り付けには枝元くんも加勢した。
「これ、全部競技場まで運ぶんか?」
「選手とスタッフは試合が終わってから『ぽーぽー』で食べるから置いておいてって」
出来上がった弁当をたにやんの車のトランクに乗せて配達した。
競技場に着くと試合がもう始まっていた。
「どう、勝ってる?」
応援席にいた亜矢美ちゃん、星子ちゃん、凪ちゃんに声を掛けた。
「1対0で負けてます」
「あら~、応援は順調なん?」
「はい、もっちろん!」
亜矢美ちゃんが手作りのゲートフラッグを掲げてみせた。
「ん? なになに、『勝て勝て勝て勝て、星崎イレブン!』? おーっ、勇ましいね~」
フラッグはテカテカしたピンクの布に、星の形のラメがたくさん縫い付けられていた。
わっ、と歓声が上がったのでピッチを見ると、相手がコーナーキックのチャンスを得たところだった。相手の選手がゴール前でヘディングをし、あわや、というピンチをゴールキーパーの俊也くんが阻止した。星崎イレブン応援席は拍手喝采である。
「いいぞ、星崎!」
星子ちゃんがメガホンで声援を送り、亜矢美ちゃんがゲートフラッグを揺らすと、凪ちゃんが便乗して叫んだ。
「俊也く~ん! 大好き~!」
「へっ?」「なに?」
「あわわわわ……、つい言っちゃった」
二人に揉みくちゃにされて恥じらむ凪ちゃん。
そんな和やかな様子をあかりもにこにこして見ていた。
ハーフタイムに入り、たにやんと手分けしてグルクン唐揚げ弁当を配った。
「勝つにはあと2点か、厳しいな」
「引き分けでもええから、1点でも入れてほしいね」
「試合前は週三で食べてたんや、いけるやろ」
「そうやと、ええけど」
あかりとたにやんも、お弁当を食べながら勝利を願った。
いよいよ後半が始まり、選手がピッチに入ってくるタイミングで応援ユニットが立ち上がり、ゲートフラッグを持ちあげて歌を歌い出した。
♪ラララ ラララ
君に届け この声
ずっと 君とともに
ララ 星崎イレブン
応援席が呼応して、事前に配ってあった歌詞カードを見て、歌い出した。拓実くん、俊也くん、彰くんたち選手が応援団を見て会釈した。
キャッ! と飛び上がりたくなるのをぐっと我慢して、亜矢美ちゃんたちは応援に専念した。あかりはちょっと胸が熱くなる。
残り時間五分を切った頃、相手のフリーキック崩れで、ミスに乗じて拓実くんがセカンドボールを拾った。
拓実くんからパスを受けた彰くんがドリブルで持ち込み、シュート。ボールはゴールの左隅に吸い込まれていった。
声にならないどよめきが応援席を包み、あかりもたにやんも、亜矢美ちゃんたちと一緒になって抱き合って喜こんだ。
そのときばかりは、ソーシャルディスタンスのことはすっかり忘れていた。試合は1対1のドローで終わったが、まるで勝ったかのようなお祭り騒ぎがしばらく止むことはなかった。
★おまけ動画 星崎boys&girls★
「グルクンパワー、おそるべし」
「うそだと思ったら一度、お弁当屋ぽーぽーで『グルク唐揚げ弁当』を食べてみてくださーい」
「なお、これは個人の感想でーす」
拓実、俊也、彰が話す後ろで、亜矢美たち女子三人がゲーフラを掲げて、声を揃える。
「星崎イレブンは永遠でーす」
みんなでⅤサインをしながら「いえーい!」。
少年少女たちからカメラが引くと、デイゴをモチーフにした琉球紅型のタペストリー、ハイビスカスの造花を飾った原色のインテリアが映る。
「グルクンの飛んで飛んで捌きの後に入れてみたけど、どう?」
「うん、バッチシやな」
「ホンマ? よっし、たにやんのお墨付きももらったことやし、これで更新しよ。おうちでオキナワンにも、グルクンパワーのおすそわけしてもらわななあ」
【ぽーぽー川柳 今日の一句】
飛べよグルクン
星崎の名にかけて
お粗末さまでした♪
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