いつかまた、木枯らしが吹いて

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 梨沙が窓を閉めたのをきっかけに教室を出た。事務室で見学許可証を二人分返却し、ぼくらは並んで校舎を出る。  梨沙が飲みたいというココアを買いに自販機へと歩く途中、練習を終えたユニフォーム姿の学生とすれ違った。  その一番後ろを歩いていた体育教師は、ぼくらを見て声を上げた。 「おー、仲直りしたんか」  問いかけの意味が分からず首を傾げていた梨沙の手を握り、ぼくはまた適当に挨拶をしてからその場を早足で去った。  学校を出てからココアを一口もらうと、その代わりに送ってけと梨沙が言った。  梨沙曰く、父親が玄関で待っているらしいから、家の近くで引き返そう。  梨沙は就活中で、就職が決まったらまた会おうとの話になった。 「就職が決まらなかったら会えないから応援しててね」  恐ろしいことを平然と口にする梨沙は、何故かとても楽しそうだった。楽しそうな梨沙を見て、ぼくも笑う。声を上げて笑うのなんて何時ぶりか。思い出そうとしてうかぶ記憶には、また梨沙がいた。  思い出話をしていたら、あっという間に梨沙の家に着いた。玄関でドッキリ大成功と笑う父親と共に梨沙は家へと入っていったが、すぐにまた戻ってきた。 「連絡先交換するの忘れてた」  交換を終えると、梨沙は「寒いーー」と口にしながらそそくさと家へ戻っていく。  一人で帰路につく頃には、すっかり日が暮れていた。家の近くで携帯電話が振動するので確認したら、梨沙からメールが届いていた。 『今、どこにいるの?』  一瞬、走って梨沙の家に向かい、 「ここにいる!」と言おうと思ったが、結局やめた。  代わりに、歩いている場所の写真を撮って送った。返信はすぐに来た。 『どこ笑』  送ったのはお昼頃にも歩いていた並木道だった。街灯のおかげで夜にしては明るいが、相変わらず葉を失った枯れ木には寂しさを感じる。でも、お昼ほど寂しくはなかった。枯れ木でも、一本だけではなく、何本も並んでいるからかもしれない。 『通学路だよ』 『懐かしいね』  そう言えば、あれだけ喋って言い忘れていた。 『あのさ』 『短いよ。なに?』 『おかえり』  次の返信もやっぱり早かったけど、それまでよりは数分遅かったのが、何だか嬉しかった。 『ただいま』
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