いつかまた、木枯らしが吹いて

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「今、どこにいるの?」  と空に向かって聞けば、いつでも現れてあげると梨沙は言った。梨沙の言葉にぼくは、またいつもの冗談だな、と笑った気がする。 「ここにいる! っていきなり出てくるから、驚かないでよ」  秋の終わりに、放課後の教室で大きく身振りをしながら喋る梨沙は、背が低く華奢なのに存在感があった。  でも、元気いっぱいだった梨沙は突然、表情を曇らせた。 「とにかく、絶対聞いてね」  西日が差す放課後の教室。机にもたれながら瞳に涙を浮かべる梨沙の姿。窓ガラスに映る横顔。それまでの楽しげな空気が、開いた窓から流れ出てでてしまったかのようだった。  目の前の光景すべてが、やけに寂しそうだったのを覚えている。 「約束だよ?」  鼻先が触れるほどに顔を近づけてくる梨沙。息が近く、握られた両手。鼓動が早くなっても、ぼくはどうにか言葉を返した。 「分かった、約束する」  その会話から少しして、梨沙はぼくの前から姿を消した。いきなりの引っ越しだった。クラスメイトもぼくを含め誰も知らなかった。  あれから数年前が経った今でも、秋の終わりに差し掛かると、梨沙との思い出ばかり蘇る。  梨沙とは、一緒に高校を卒業することが出来なかった。 「今、どこにいる?」  約束の問いかけを、ぼくはまだ、空に向かって聞けていない。
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