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コンビニを出て花屋までの5メートルほどの道すがら、先刻の敦志の顔を思い出して緩む頬を我慢できない。
『どっか行くか?』
そう訊いた時の敦志は、明らかに動揺…良い意味で戸惑っているように見えた。
まさか俺から誘われるとは思っていなかったのだろう、その戸惑う姿を素直に可愛いと思った。
『何だ、嫌なのか?それなのに誘ったのかよ?』
そう言うと敦志は、「とんでもない!」とでもいうようにぶんぶんと首を振った。
まるで敦志の首がすっ飛んで行きそうな勢いに思わず笑ってしまったけど、俺自身も断られなくて良かったと心の何処かで安堵していた。
指切りだと伸ばした小指に絡められた、敦志の小指の感触がまだ残っている。
結んだ小指を解く直前の、敦志の嬉しそうに笑った顔が忘れられない。
花が咲くように笑う…ああいうのを「花笑み」っていうんだろうな…
「お帰り、本上君。岩村君を無事デートに誘えたかい?」
「はい」
「おっ、妙に素直だな。よし、その素直なうちにそこの花を飾っといてくれ」
「はい!この花って……芍薬ですか?」
「ああ。ちょっと早いけど入荷したんだ」
まだ蕾のままの芍薬を一本手に取る。
そっと顔を近づけると僅かながら甘く爽やかな香りがした。
何故だかその瞬間、最後に見た敦志の笑顔を思い出した。
「……?」
「あらトモくん、どうかした?」
「あ……いえ…」
「芍薬って素敵な花よね~。牡丹ほど大袈裟じゃないけど気品があって優美で。私はね、この花には何処かおっとりした雰囲気を感じるの」
まるで、端正な顔立ちに均整のとれたスタイルで「モデルか!」というようなルックスなのに、その中身は何処かのほほんとしている敦志みたいな花だな…
そんな風に思った時、
「知ってる?芍薬の花言葉は「恥じらい」「慎ましさ」。トモくんが持ってるそのピンクの芍薬には「はにかみ」なんて意味もあるのよ」
薄いピンク色の蕾にはにかんだように笑うエリックの笑い顔が重なる。
大丈夫、俺達二人はきっとうまく遣って行ける。
何故かそんな確信のような予感がして……思わずそっと唇を寄せた。
- 終 -
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