花屋さんとバイト君

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花屋さんとバイト君

朋之(ともゆき)、明日は空いてる?」 「いや、普通に仕事だよ」 「そっかぁ~」 眉間を指先で擦りながら、ちょっぴり残念そうに目線を下げた敦志を見る。 あの日以来、敦志は時々うちの店に顔を出すようになった。 店長には俺の注意が足らなくて商品をダメにした事を正直に話した。 その上で敦志にも代金は貰えない、俺が出すと伝えた。 けれど 「不可抗力じゃん。アンタの所為じゃないよ」 そう言った敦志は、初めて声を掛けた時の、やるせなさで子供染みた態度を取ったあの姿とは別人のように見えた。 「……なぁ、……偶に…遊びに来ても良いか?」 少し恥ずかしそうに訊いてきた敦志が 「ああ、勿論。俺は本上朋之、宜しくな」 「……岩村…敦志…だ…」 差し出した俺の手をぎゅっと握り返した時、嬉しそうにはにかんだその笑顔を見て、初めて同じ男を可愛いと思った。 「何だフッちゃったのか?岩村君の誘い」 何処か肩を落とした様子で店を出て行く敦志の後ろ姿を見た店長が、笑いながら俺の肩を叩いた。 店長と奥さんとも顔馴染みとなった敦志は、二人からも可愛がられている。 「フッたって…別にそんなんじゃないですよっ!それに明日もお店がありますから」 「だったら明日は臨時休業にしようかしら。私達も恋人時代を思い出してデートするのも良いかもね~。トモくんもアッくんとデートしてきたら?」 「えっ?!」 店先で切り花の手入れをしていた奥さんが、中へ戻ってくるやニコニコしながら言うもんだから思わず声が引っ繰り返った。 「デ、デートっ!?」 「あら、だってアッくんはどう見たってトモくんに気があるでしょ」 そう。 敦志と親しくなり色々と話をするようになって、何となくだけど気づいた。 敦志は…俺の事が好きなんじゃないか、と… 当たり前だけど、直接言葉にされたりそれらしい態度を取られたりした訳じゃない。 けれど、何となく分かってしまう。 ふとした時の敦志の視線に、それとなく気遣ってくれる言葉に、少しぎこちない仕種に、敦志の “好き” が込められている気がして… そんなの俺の勘違いだ!気の迷い、気にし過ぎなだけだ! 何度もそう思おうとした。 でも一度そう感じてしまってからというもの、俺までが何かと敦志を意識するようになってしまって。 「トモくんはアッくんをどう思ってるの?」 「えっ?!」 「アッくんってカッコイイし~、優しいし~、ちょ~っとぼんやりしてるけどそこがまた可愛いし~、うちの人が居なかったら絶対に恋しちゃってるなぁ、私」 「おいおい、旦那の前で言うかぁ?そういう事」 「あら、正直な意見よ。それにあなたが居るからそうなってないという最大限の愛情表現よ」 「本当かね~」 いつも繰り広げられるお惚気合戦も、今日は何だか落ち着かない。 「ねえ、トモくん。ポピーの花言葉って、知ってる?」 「え?…何ですか、いきなり…」 「あなた達2人が仲良くなる切っ掛けになったのって、ポピーの鉢植えだったんでしょ?」 「えぇ…そうですけど…」 「ポピーの花言葉の1つに “恋の予感” というのがあるのよ」 そう言って、奥さんは意味あり気に笑った。
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