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バイト君と花屋さん
「何だよ、花になりたいのか?敦志は」
カウンター越しに覗き込むようにして俺を見ていたのは
「ととととっ…朋之っ!」
今、俺の頭の中を占領している男だった。
慌てて立ち上がると、特に乱れている訳でもない筈の髪型を手櫛で直し、別に洒落たデザインでもないコンビニの制服を手で払って直す。
そうしてから小さく咳払いをして朋之を見ると、朋之は “変な奴” とでも言うかのようにクスクスと笑っていた。
……あぁ…可愛い…
「どっ、どうしたんだよ?何か要る物でも?」
ニヤけそうになる口許を全力で抑えながら、努めて平静を装う。
「いや、そうじゃなくてさ…」
ちょっと困ったような照れ臭そうな表情で視線を逸らした朋之が、数瞬後、意を決したように俺を見た。
「…敦志は明日休みか?」
「えっ?」
「さっき店に来た時、俺に『明日は空いてる?』て訊いただろ?敦志はバイトは休みか?」
「あ、あぁ…休み、だけど…」
「俺も明日、店が休みになったんだ。だから空いてるぞ」
「……………え?」
「どっか行くか?」
「えぇっ?!」
「何だ、嫌なのか?それなのに誘ったのかよ?」
少し不満そうな表情で僅かに突き出された唇に、慌てて首を振る。
「そんな訳ないっ!!」
安心したように笑った朋之につられて俺も笑う。
「良かったよ。もしフられたらどうしようかと思ってた」
「……んなワケないだろ……朋之から誘ってくれたのに…」
「よし、約束な!明日10時にうちの店の前で。指切りだ」
「………ぅん、分かった…」
差し出された小指に、小指を絡めた。
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