妻は虫嫌い

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「ねぇねぇ、ママ」  可愛い息子の可愛い声。 「パパがキリギリスになったらどうする?」  息子を挟んで川の字に並んだ布団の中。子どもの質問はいつも突拍子もない。 「えぇ? パパがキリギリスになっちゃったら?」  妻は何て答えるだろう。既に夢に片足を突っ込みながら聞き耳を立てる。 「ママもキリギリスになろうかな」  何気なく言ったであろう妻の言葉。それが意外にも胸にきて、じんわりと頬が熱くなった。  大の虫嫌いなのに。  不意に愛情を惜しげもなく晒してくる。   「ママもキリギリスになっちゃうの?」 「そう。パパと離れたくないから」 「じゃあ、ぼくもキリギリスになる!」  何でもいい。このふたりと一緒に居られるなら、キリギリスにでもなってやる。  胸を温かくしながら、久しぶりに妻と手を繋いで眠りについた。  幸せって、こういうことをいうのかな。
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