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祝賀会
都内某所の六本木のホテル。『岡嶋芸能事務所創立記念パーティー』と書かれた立て看板が置かれている大きな宴会場を前に渉太は尻込みしていた。
会場の扉口付近の受付には、律仁さんのマネージャーの吉澤さんと髪の毛を後ろで結っている女性が小さな女の子を抱えて座っている。吉澤さんが来場者の御祝儀を受け取とり、女性が帳簿をつけているようだった。
「本当に俺なんかの素人が来て大丈夫なんですか……」
「心配いらないよ。吉澤さんもいるし。社長にも許可は下りてるから」
祝賀会のようなものは当然初めての渉太の足はガクガクに震えていた。着るものだって何を着ていけばいいか分からず就活用のスーツを着てきたものだから、華やかな装いの周りを見て浮いているのではないかと不安になった。
黒いのスーツ、シャツに柄物のえんじ色ネクタイの律仁さんも恰好いいが、見惚れている余裕などない⋯⋯。
律仁さんは当然のように慣れているのか堂々と先を行くので、渉太は慌てて後に続いた。
受付前まで来て吉澤さんの目の前で止まる。
「吉澤さん、はい。渉太の分も」
律仁は御祝儀袋を二つ取り出すと吉澤さんに渡す。
我ながら恥ずかしい話ではあるが、律仁さんに祝賀会の話を持ちかけられたときに、流石に一般人の自分が分不相応すぎてお断りをしたものの「社長が会いたいらしいから、ついてきて欲しい」と強請られたので行かざる追えなかった。
渉太なりに事前に調べて御祝儀など用意した方がいいのかと考えたものの、ネットで調べた情報によると諭吉2、3枚が一般的だと記されていて度肝を抜かされた。
幾ら彼に誘われたとしても祝儀を持っていかないわけが無いが、如何せん未だ学生の身分である渉太には金銭的な余裕もない。律仁さんに改めて断りを入れたら、「その事に関しては俺が出すつもりでいるから。渉太にはいて欲しい」と言われ今に至る。
渉太は吉澤さんと目が合い「お久しぶりです」と軽く会釈をして挨拶を交わすと、律仁さんの手元から御祝儀袋を受け取った吉澤さんは「真由美、お願い」と隣に座る女性に手渡していた。
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