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「身内が多いからってあんまり気を緩めた行動するなよ。外部もいるんだからな。特に、早坂くんがいるんだから、匂わせる行動は注意するように」
「はいはい。相変わらずうるさいなー」
父親のように注意喚起をする吉澤さんを律仁さんは鬱陶しそうに耳の穴を穿りながら話を聞いている。
「早坂くんも、匂わせる行動は慎むように。浮かれてSNSとかに上げるのも禁止だからな」
「はい。もちろんです。気を付けます……」
律仁さんは「渉太がそんなことするわけないじゃん」と過信過ぎるほど信じてくれている。無論、渉太自身も軽率な行動をとるつもりは毛頭ないが、吉澤さんの忠告は身が引き締まる思いでいた。外部もいるのであれば、尚更事務所の顔である律仁さんのプライベートな表情を晒すわけにはいかないのだろう。
ゴシップは有名であるものを陥れる格好のネタになることは一般人の渉太でも、分かっていた。そんな場所に本当に自分が来て良かったのかと尻込みしたいたが、「まぁ、一般人の君には肩身が狭く感じるかもしれないけど、ゆっくりしていけ」と渉太を気遣った言葉を貰い、やはり吉澤さんはいい人なのだと再認識した。
「真由美さん、お久しぶりです」
律仁さんはそんな吉澤さんから隣にいた女性に話し掛けると暫く世間話をして、受付を後にした。律仁さん曰く、吉澤さん隣にいた女性は、吉澤真由美さんと言って、吉澤さんの奥さんで社長の娘さんだと説明してくれた。彼女の膝の上に乗っていた女の子は二人の娘さんであることも。
吉澤さんが既婚者で子供持ちであることには驚いたが、何より驚いたのはあれでいて元ヤンだったと言われたことだった。律仁さんが以前真由美さんに見せて貰ったという吉澤さんの昔の写真を見せて貰うと、確かに赤いスカジャン姿にオレンジ色の短髪に無数のピアスとやんちゃをしていそうな風貌であった。どんな経由で今に落ち着いたのか気になりはしたが、吉澤さんに直接聞くのは勇気のいることだった……。
そんな吉澤さんの謎を深めながらも会場内に足を踏み入れると渉太は思わず立ち止まって呆然としていた。
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