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渉太自身は良く知っているわけではないが、アルバイト先の花井さんが言っていたT―PLINCEの人ではないだろうか。店に売っていたタブレット菓子の広告写真を思い浮かべては顔が合致した。
確か花井さんの情報では、黒髪の短髪の如何にも正義感強そうな爽やかな彼がグループのリーダーで自分の一つ上の岩崎睦也。渉太と同じ年で茶髪でおっとりとした雰囲気を醸し出している方が鳴海洸一だったはず。
そして、この場にはいないグループの最年少の十九歳にしてセンターである那月遼人。明るめの金髪が一際目につき、ドラマなどの露出が多いせいかグループ内での人気は断トツだと花井さんが言っていたのを思い出す。その那月が居ないと知るや否や律仁さんは額に拳を当てて深く溜息を吐いた。
「相変わらず……。俺だけならまだいいけど、事務所の大先輩もいるんだから気を付けるようにお前ら云っとけよ?」
「すみません……。律さんに申し訳ないっす……。後で挨拶に行かせるようキツく言っときます。洸一、挨拶終わったら遼人探しに行くぞ」
「はいはい。岩っちそんなに必死にならなくても遼ちゃんすぐに戻ってくるって」
背中を丸めて頭を下げる岩崎を見て日頃から那月という男に手を焼いていることが伺える。
「そんなこと言ってられないだろ?社長の挨拶始まる前に連れ戻さないと、アイツ下手したら戻らないかもしれないだろ?」
「ちょっと、岩っち……」
鳴海が宥めても心ここに在らずなのか、腕時計を見て焦った様子の岩崎は律仁さんに「律さん、失礼します」と挨拶をすると足早にその場から離れてしまった。鳴海も慌てて岩崎の後を追う。
二人が人混みの中をかき分けて会場から出ていくのを見送った後で律仁さんが此方を見て苦笑を浮かべてきた。
「渉太、知ってる?さっきの」
「ええ、何となく……。って言っても知ったのは本当に最近ですけど、今人気のT-PRINCEの人達ですよね。律仁さんの後輩の……」
「そう。今の二人は礼儀正しくて真面目だから心配無いんだけど、那月っていうのが少し破天荒というか……。世話が焼けるというか………ね?まだ十代だし若いから仕方がない面もあるんだけどね……。こんな内情を渉太に話すのは良くない無いよね。ごめんね」
しっかり者の岩崎に楽観的の鳴海に問題児である那月といったところだろうか。律仁さんも律仁さんで後輩に心労しているのは見ていて分かった。コンビニの有線で聞いたときは爽やかなラブソングを歌う人達だと思っていたが、蓋を開ければ一癖や二癖のある人達そうだった。
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