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歌の恩師で初恋の人
律仁さんから緊張しているのが伝わり、聞き手の渉太でさえも身構えていた。雪城レイナと聞いて彼にとって、ただの事務所間の仲間ではないことはホテルのやりとりから感じていたし、渉太が一番気になっていることだった。問うのが怖いけど問わずにはいられない。
「やっぱり、律仁さんと雪城さんってその……。昔……。その……」
はっきりと単語にして問う勇気はなかった。あんなに綺麗な人が過去の律仁さんの恋人だったなんて知ってしまえば、劣等感が生まれると分かっていたからだ。知りたいけど知ってしまうのが怖い。あんな綺麗な人に対して自分の醜い心を彼に向けたくない気持ちが織り交ざる。
「うーん……。俺の過去のそういう話、渉太は聞きたくないかもしれないけど俺としても、アイドルの律としても雪城レイナは大きな存在だったから知っておいてほしいと思ってる……だから、聞いてくれる?」
そんな渉太の気持ちを汲むように問うてくる律仁さんは聞くも聞かないも渉太次第で返事を委ねてくるところは、彼の気遣いだろう。
聞かないという選択肢もああったが、それは彼から逃げるような気がした。彼が話そうとしてくれているのならばちゃんと聞いていたい。 天体観測の自身の過去の話だって、冬のキャンプの返事だって、律仁さんはちゃんと向き合って話してくれたのだから今度は自分が彼の話を聞く番だ。
「はい……。正直聞いた後の自分がどうなるか怖いですけど、雪城さんと律仁さんのこと教えてください」
「ありがとう。今もこの先も俺にとって渉太は最愛の人には変わりないから……」
律仁さんが近づき、そっと頭に手を添えられたが渉太は両拳を握り、唇を強く噛みしめた。こんなとき二人の間がどんな関係であっても動じない強い心があればいいと思った。そんな欲しいと思って手に入るようなものではないと分かっていても、望んでしまう自分は心がまだ弱いからだ。
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