歌の恩師で初恋の人

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※律仁さんの過去編「君のために僕は歌う」を読んでくださっている方にはネタバレになる部分がありますので、自己判断でお願いします。 午前の授業を終えた昼休み。渉太は生徒が挙って集まるラウンジにいた。耳にイヤホンを装着して律仁さんから貰った音源ファイルを開いてみたが再生ボタンを押すのを躊躇っていた。『WR(ウィアール)/promise you』と書かれたその音源は律仁さんが鈴奈さんと音楽をする為に作った曲だった。自主製作でCDも出したものの世に出る事のなかったもの。  そんな律のファン、鈴奈さんのファンも知らないような音源を渉太が聴いていいのかと問うたが、『渉太だから聴いてほしい』と言われて強く断ることができなかった。 そんな律仁さんの昔の想い人に当てた曲を聴くのは、聴いてみたい気持ちもあったが正直勇気いることだった。漸く気持ちを整理させ聴いてみる決心がついたころには気づけば彼が話してくれた日から一週間経っていた。 律仁さんが大樹先輩とデュオでアイドルをする前、三カ月だけ鈴奈さんと組んでいたのだと教えてくれた。当時同じ事務所に入っていた二人は、律仁さんは鈴奈さんの歌声に惹かれたことで彼女となら歌をしてもいいと思うようになっていた。  一緒に組むことをマネージャーの吉澤さんと鈴奈さんのマネージャーさんに直談判したが、律仁さんが鈴奈さんに好意を寄せていると知っていた吉澤さんに却下され事務所からの後押しはもらえなかった。 それでも諦められなかった律仁さんは顔を隠し、名前を変え内緒で活動したいたのだという。今も変わらずの律仁さんの行動力には驚かされたが、そんな彼に付き合っていた鈴奈さんもそれだけお互いに惹かれ合うものがあったのだと複雑な気持ちになった。  路上ライブで少しずつ活動し、二人の名前を売るためCDまで制作して正念場のライブハウス主催のライブで鈴奈さんは来なかった。そんな大事な日に樫谷プロデューサーによる鈴奈さんの歌姫としてのデビューが決まったのだという。 『ライブハウスの帰りにさ、大きなビルのビジョンに全く違う系統の派手な衣装を着た鈴奈のPVみた時のショックは未だに忘れられないかな』と悲しそうに語った律仁さんの顔が思い出された。  
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