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「何度見てもさ、律ってカッコいいよね」
「だよねー。でも最近の律ってカッコいいだけじゃなくて、可愛いいところもあるよね」
「そうそう。前々からお茶目なところはあったけどさ、最近特にギャップがヤバいよね。
この間の『チューボウですよ』のやつ見た?砂糖と塩間違えててさぁ、柾井さんに怒られてちょっとシュンって落ち込んでいた顔、可愛かったよね‼」
あまり見てしまうと怪しまれかねないので、渉太は正面に向き直り、再び看板を見上げる。
「あと、去年の写真集見た?」
「みたみた。沖縄だっけ?オフの日に撮影したやつなんでしょ?浜辺で笑ってた律、ホント天使って感じ」
止まらない彼女たちの浅倉律についての話題に渉太は心の中で深く同意しては緩む口元をキツく結んだ。昨年の映画の撮影の合間の日程で撮ったという作品の公開日と共に発売された写真集。渉太も当然のように大学近くの本屋で購入し、発売初日にチェック済だった。
その映画もまさか本人と一緒に鑑賞するとは思ってもみなかったが、ひとりで行く気満々で居たら律仁さんに「俺も渉太と観に行きたい」と幾ら渉太が断っても駄々を捏ねられてしまった為にレイトショーで観に行くことになったのがバレンタインの日の話。
以前、律仁さんのマネージャの吉澤さんにも言われていたが、「君と出会ってから、律仁はいい意味で肩の力が抜けるようになった」と褒められたことを思い出す。
映画を鑑賞後も律仁さん本人に、「好きな人と引き裂かれるシーンは渉太に別れを告げられた日のことを思い出して演技してた」と言われ、自分自身が律仁さんにとって大きな存在であり、彼の行動の影響力になっていることは嬉しくもあるような、恐れ多いような気持ちだった。
相手が芸能人だという事実を街なかのポスターやコンビニに並べられている雑誌、テレビなどで突きつけられて臆することもあるが、律仁さんとどんなことがあっても乗り越えると決意して抱き合った以上、彼に悲しい思いをさせるわけにはいかなかった。
「でもさ、でもさー。律もいいけど、最近T-PRINCEの那月くんもカッコ良くない?」
「えー。でも那月くんってプライベートで遊んでるって噂だよ⁉」
「そこがいいんじゃん」
律の話をしていた女性たちの話が途端に他のアイドルへと変わる。何処かで耳にしたことのあるような名前ではあったが、渉太自身は律以外の有名人には興味がないので顔が浮かんでこなかった。
腕時計で時刻を確認するとアルバイトの時間まで二十分。うかうかと油を売っている場合ではないことに慌てた渉太はペダルを踏みこむと職場であるコンビニまでの道のりを急いだ。
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