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どうして逮捕されたのか、何をしたのか。そんなことまでしっかり伝わってしまっていた。
それは俺たちが恐れていたことそのものだった。せっかく早期の釈放が叶ったのに、まさかこんな形でバレることになるなんて思いもしなかった。
「……落ち着いてくれよ。あんまり騒ぐと外に声が漏れて、また余計に噂される……」
「だって、アナタはこの家が何て呼ばれてるか知ってる……!?
“鬼の棲む家“よ!?
ご近所中からそんな、そんな目で見られてるって知ったらもう……とても落ち着いてなんていられないのよ……!」
母さんはより興奮して泣き出してしまった。
「母さん……」
近所に知られたのは、逮捕のことだけじゃなかった。
俺と天音が離婚したこと、その理由が俺の不倫だということ。
そして母さんの嫁いびり・父さんのセクハラ。その全てが何故か赤裸々に知れ渡っていたのだ。
そんなの、普通は分からないはずなのに。
こうして俺たちは近所中からも針のむしろ状態で、母さんはすっかり参ってしまい
外に出ることを恐れるようになった。
感情の起伏がより激しくなり、死んだように無気力でいるかと思えば、近所の人の様子をこうして執拗に気にして問いかけてきたり。ノイローゼのようなものだろうか。
そしてそれは、俺だって同じだ。
「浩一くんは本当に優秀ね」
「お勤め先もあの○○なんですってね」
「それに愛想もいいし。うちの息子に爪の垢を煎じて飲ませてやって欲しいものだわ」
近所を歩けば、いつだってこの身にあびるのは賞賛ばかりだった、それなのに。
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