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その日の夜、浩一は残業という名の不貞行為に耽ることなく帰宅した。
その顔には「いかにも怒っています」とでもいうように、不機嫌さを醸しながら。
「おい、また母さんに酷いこと言ったんだって?」
そうして浩一は私の顔を見るなり、睨みつけるように強い口調で言った。
「酷いことって?」
「それは、母さんの言動が不快だとか天音を奴隷にしてるだとか、そういうことだよ」
全くこの親子は、相変わらず自分を棚に上げて大袈裟に言いつけ合うのがお得意らしい。
「うん、確かに言ったよ。だけど……それのどこか酷いの?
だって、全部本当のことじゃない」
「は……っ?」
私の返答に、浩一は面食らったような表情で固まった。
「お義母さんの言動については、前に聞かせたよね?
いつもあんなことを言われて、私がいい気でいられるわけないって分かるよね。
それに自宅の家事に加えて義実家での家事を強制されて、休む暇もなくこき使われてた。
これが奴隷じゃなかったら何だって言うの」
「いやそれはさ、嫁ならある程度はしょうがないっていうか……」
「……いい加減貴方も、嫁って言葉を免罪符にするのはやめて。
私は嫁である前に1人の人間で、悲しいとか辛いって思う心はちゃんとあるの」
もう我慢しなくていい、そう思ったら止まらなかった。
私は浩一を真っ直ぐに見据える。
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