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「それにしても長尾さんのとこは災難続きよね。
芳子さんがあんなことになって、今度はその孫がなんて」
「そうねえ。芳子さんって、確か自宅の階段から落ちたけど当たり所も悪くてああなったんでしょう」
「そうそう。要介護状態っていうの?とても素人の手に負えるものじゃないから、普段は施設に入ってるらしいわよ」
「怖いわねぇ、私たちも歳だし気をつけないと……」
移り変わった噂と視線。その対象は百合花たちのそばで放置された車椅子に座り、呆けたように宙を見つめ続ける老婆。
それは、かつての私を苦しめた大きな要因の一つである元義母の姿だった。
元義母がこんなことになっているのも、私は今日まで知らなかった。
「……」
ふと、百合花と視線が重なる。
その一瞬、その口元があの日のように嗤うのを、私はこの目で確かに見た。
だからこそ、それを疑わずにはいられなかった。
「……陸斗のことは、本当に事故だったの……?」
百合花を人気のない場所に連れ出して、私は尋ねる。
「……え? そう、ですよ?
警察の人の話でも事件性はないっていう判断でしたし……」
どうしてそんなことを聞くのかと、百合花は怪訝な表情を浮かべて、それからハッと何かに気づいたようにこちらを見返してくる。
「天音センパイ、もしかして……私がそうなるように仕組んだ、とか疑ってるんですか……?」
「……」
「そんな……っ」
私がその言葉を否定しないことに「ひどい」と声を上げて、百合花は手のひらで顔を覆うと、しゃくり上げるように肩を震わせ始めた。
「……そう、疑ってるよ。
だって私は、貴方の本性を知ってる」
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