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過去の私みたいに、そうほいほいと頷く訳がないでしょう?
だって私の地獄は、そこからより激しくなったのだから。
同居してからのかつての日々を思い返せば、今義実家でやられていることなんてまだ可愛いものだ。
「んだよそれ……」
「……今夜一晩、いや浩一が仕事から帰ってくるまででいいから……私に少し考える時間をください」
それでも浩一の性格を考えると、今ここで完全に突っぱねるのは得策ではない。
私が下手に出て頼み込むと、浩一はまだ何か言いたげにしながらも時計を見て、出勤までの時間が迫っていることを知るとため息を吐きつつ頷いた。
「あー分かったよ」
浩一はカップに残ったコーヒーを飲み干して席を立つ。
「今夜また、話し合いするからな」
そしてそう言い残すと、足取り荒く家を出ていった。
その物音で、うとうとと微睡みかけていた陸斗がまた愚図りはじめた。
「大丈夫、もうこわいのないないよー」
私は陸斗を抱いたまま立ち上がると、身体全体をゆっくりと揺らしながら陸斗の背中をトントンと叩いた。
そして、ふうと息を吐く。
話し合いは今夜。
分かりきった地獄に、もう一度足を踏み入れるつもりはない。
けれど浩一がそれに納得するとも思えない。
さあて、どうしたものかな。
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