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「天音が同居を渋ってることを伝えたら、母さんすげー悲しんでたよ。老い先短い自分たちの願いを考慮してはくれないのかって。俺も親にそんな顔させなきゃいけないのが辛いよ」
話し合いの翌日。浩一は帰宅して私と顔を合わせるなり、たっぷりと皮肉めいた口調で語った。
これ見よがしにため息を吐き、悲しい・辛い。罪悪感を煽るように、そこばかりを強調して。芸のないことだ。
「それに、あの録音のことも。確かにキツいことも言ったかも知れないけど、それはやっぱり天音のためを思っての事だったのに、そこだけを誇張するような真似は卑怯じゃないか、私のことがそんなに嫌いなのかって」
どうやら頼んでもいない伝書鳩の役目までしっかりとこなしていたらしい。
「それは俺もそう思う。天音がそんなことする女だとは思わなかった」
そしてまた、こちらに非があるのだと主張する。
「……卑怯って、私はただ浩一に知って欲しかっただけだよ」
「ああ、だから天音の気持ちは分かったよ。でも、もういい大人なんだから意地を張るのはやめにしないか?」
一体何が「分かった」なのか。
目の前にいるのは人の皮を被った宇宙人か何かかと思う程に、話が通じない。
いや、私の話なんてはなから聞き入れるつもりがないだけか。
「……今日も頷く気はなさそうだな」
返事をしない私のことを、浩一は忌々しそうに見やる。
浩一が私の同意に固執するのは、いざ同居を始めて何かあった時にそれを盾にするためだ。
「お前も同意したことだろう?」そう言って。
「……ごめんなさい」
私は俯いて、それでも決して首を縦には振らなかった。
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