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その昔、蒼海眩きネアポリスに大層麗しく気立ての良いと評判の女主人と、厳格ながら妻想いな家長。そして倅たる兄妹がいた。
兄フロールスは恵体と自尊心を兼ね備えた高貴な男で、妹オルセッタは母親そっくりな容貌である一方、御転婆な乙女として、小さな体で橄欖樹の庭を駆け回っていた。
兄妹の仲は非常に良く、家長夫妻だけでなく近所の庶民達からもそれはそれはとても、巣立ち前の雛鳥と同じくらい愛されていた。
二人は早朝に奴隷や家来達と共に庭にある麝香草や加密列、橄欖樹や葡萄といった植物の世話をした。
同じ教師の下で勉学に励み、同じ食卓で食事をし、同じ場所で共に遊んでいた。そのため近所の人々は愚か、家来・奴隷の間でも二人が別々に行動している日は殆ど目にすることができなかったほど。
優しい家族、頼りになる家庭教師達や勤勉で働き者な家来や奴隷達、そして豊かな恵みを齎してくれる故郷に囲まれた兄妹は間違いなく幸福な毎日を過ごしていた。
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