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プロローグ
『今、どこにいますか。私は、地元で独り暮らしをしています。結局、家業は継いでおりません。やはり、人を相手にする仕事は、私には向いていませんでした。今は、絵を描くことを生業としています。この不景気な時代で、私は少しも経済的に困窮していません。本当に恵まれているな、と思います。すべて、貴方のおかげです。当然、貴方の居場所は用意しています。なので、何も心配せず、ゆっくりと帰ってきてください』
そこまで書くと、私は鉛筆を机の上に置いて、紙を茶封筒に入れた。
背伸びをして、深呼吸をしてから、机の引き出しを開けて、中から一枚のキャンバスを取り出す。
それは、若い頃の私が描いた作品である。キャンバスには、整った顔立ちをした青年が写生されていて、右下に私のサインがあった。
懐かしくなって、口元が緩む。
それと同時に、寂しくなった。
彼は今、どこにいるのだろう。
私はキャンバスを胸に抱えて、目を閉じた。
ゆっくりと思い出す。
若かったあの頃を。
楽しかった日々を。
ゆっくりと……。
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