アイデンティティ、再鋳造

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アイデンティティ、再鋳造

 それから一か月が過ぎようとしていた。  初回のアルバイト以降、介斗は変身代行の仕事を請け負うことはなかった。それはマスカレードへの警戒心から来るものであったが、ひと月も経てばその気持ちも薄まり始めていた。それに、変身代行で稼いだ金は半分以上を消費していたので、そろそろまたアルバイトを探さなければ、と思い始めていた頃だった。  そのような折、介斗のスマートフォンに再び「変身代行」を紹介するメールが届いた。再び赤の他人の大学生に変身しないか、という内容だ。  もちろん介斗は即座に返答することはしなかった。あのときから少しずつ消えていた懐疑の火が再燃し、その感情がまだ手に残っている封筒の重みと天秤にかけられた。  どうやら今回もどこぞの大学生に扮することになるらしい。講義を受けたりサークルに参加したり、といったことなら危険もないだろう。話だけ聞いて辞退する、といったこともできるかもしれない。  介斗の指がゆっくりと、メール本文のURLに近付き――
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