アイデンティティ、再鋳造

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 これでもうやめよう。さらに深入りしてしまうと取り返しのつかないことが起こりそうな気がする。だから、これが最後だ。  そのようなことを自分に言い聞かせながら、介斗は再度マスカレードのオフィスに脚を踏み入れた。  紹介された仕事は、やはり大学生の授業の出席代行だった。指定の大学も介斗が住んでいるところから遠くはなく、授業を終えればその足でマスカレードのオフィスへ直行することもできる。しかし時間は前回より長く、午前から午後一杯にかけての授業に出るということだったが、やはり一日だけの代行なので大きな負担ではないだろう。  介斗は再び変身代行のアルバイトに参加することにした。今回介斗がなりきるのは「松岡大志(まつおかだいし)」という同い年の大学生だ。バイト当日の午前、例の黒カーテンのスペースにてその顔に変貌させてもらった介斗は「松岡大志」としてオフィスを出発し、指定の大学へ赴いた。  やはり今回も特に苦労する場面はなかった。講義のときはできるだけ目立たない座席に座り、学食はなるべく使用せずに人気のないところでコンビニ弁当を食べる。午後の講義も板書の撮影と口頭説明のメモを忘れさえしなければよい。一回目の代行よりも慣れがでてきて簡単にこなすことができ、講義中に少し眠気に襲われてしまうほどだった。  最後の講義での出席登録を終え、今日の仕事も無事終えることができた。あとは報酬を受け取りに行くだけだ。  大学を後にして一息つく介斗もとい松岡大志。  しかし、その最後の手続きにおいて、信じられないような事態が起きたのである。
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