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日本人特有の頑固そうな瞳の色をチラつかせ、テルは俺を見る。まだまだ無理が見え隠れしていた。
「でも、1つだけ。お願いしてもいいかな?」
「何だ?」
「このミルクラッテの淹れ方、教えて」
「コレか?」
「うん。そう。僕、これを飲むといつもホッとするんだ。多分、コレ、……幸せの味」
カップを見て微笑むテルの心を映すかのように、残ったクリームがテルの吐息で小さく揺れた。
テルの練習に付き合った俺とテヒョンは、一体何杯のミルクラッテを飲んだのだろう。納得いく味が淹れられるようになったのは、薄日が差し始めた頃だった。
突然訪れた彼らは、いつものようにそれぞれの場所へと戻って行った。これが最期の別れになるとも知らないままに。
数ヶ月後、テヒョンが兵役期間に入り、テルが仕事で日本へ戻り、しばらく静かな日々が続いていた。
そんな穏やかな日常を切り裂くように、スマートフォンが震え、ニュース速報を知らせる。
”日本の俳優 北上輝 死亡”
なんてひどい誤報だと思いつつ、俺は、迷わずテルにメッセージを打つ。
“今、どこだ?”
しかしその返事は、今も俺のもとに届かない……
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