幸せ味のミルクラッテ

16/16
前へ
/17ページ
次へ
 日本人特有の頑固そうな瞳の色をチラつかせ、テルは俺を見る。まだまだ無理が見え隠れしていた。 「でも、1つだけ。お願いしてもいいかな?」 「何だ?」 「このミルクラッテの淹れ方、教えて」 「コレか?」 「うん。そう。僕、これを飲むといつもホッとするんだ。多分、コレ、……幸せの味」  カップを見て微笑むテルの心を映すかのように、残ったクリームがテルの吐息で小さく揺れた。  テルの練習に付き合った俺とテヒョンは、一体何杯のミルクラッテを飲んだのだろう。納得いく味が淹れられるようになったのは、薄日が差し始めた頃だった。  突然訪れた彼らは、いつものようにそれぞれの場所へと戻って行った。これが最期の別れになるとも知らないままに。  数ヶ月後、テヒョンが兵役期間に入り、テルが仕事で日本へ戻り、しばらく静かな日々が続いていた。  そんな穏やかな日常を切り裂くように、スマートフォンが震え、ニュース速報を知らせる。 ”日本の俳優 北上輝(きたがみてる) 死亡”  なんてひどい誤報だと思いつつ、俺は、迷わずテルにメッセージを打つ。 “今、どこだ?”  しかしその返事は、今も俺のもとに届かない……
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加