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マネージャーに探りを入れさせたところ、テルが、エキストラにセリフを与えて欲しいと、監督に直談判したらしかった。
その幸運なエキストラというのが、今、俺の目の前で、甘ったるいラテを美味そうに啜っているテヒョンである。
こうして、俺たち3人は、同じ画角に収まることとなった。
休憩がてらテルが立ち寄ったのは、俺の営む喫茶店。しかし、テルは韓国語が話せず途方に暮れる。マスターの俺は、そんなテルに向かって、「冷やかしなら帰ってくれ」などと捲し立てる。ちょうどその時、日本語を勉強中のテヒョンがバイトへやってきて、ようやく意思疎通が図れた、という場面を俺たちは演じた。
映画の内容からしたら、取るに足らない場面なんてと、適当に撮影に臨んだ俺に対し、2人の熱量は凄かった。テルが、自分の演技が納得いかないと言えば、テヒョンは、自分のセリフ回しが気に入らないと言う。
2人に付き合う形で、何テイクも同じ場面を撮り直すうち、俺自身にも、知らず知らず、演技に熱が籠り始めた。今思えば、コイツらに当てられたのだろう。俺の中の渾身のマスターが表に出た時、ようやく、OKの声が現場に響いた。
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