メリーさん、はじめてのおつかい

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「私メリーさん、今どこにいるの?」 「お前の後ろだよ」  電話越しに安堵の溜息が漏れる。  携帯電話を片手に持った少女は、辺りをきょろきょろと見回しながら人通りの少ない路地を歩いている。俺はその背中を物陰から見つめつつ、頑張れ、お前ならやれる、と少女に向かって念じている。  ……おい、これは一体どういうことだ?  なんで俺はこれから自分を呪い殺そうとしている少女を見守りながら、懇切丁寧に自宅までの道案内までしているんだ。  というかこれではまるで俺の方が不審者のようではないか。  何故かこちらまで挙動不審になっていると、ポケットのスマホがもう何度目になるかも分からない着信を鳴らす。 「私メリーさん、ここを曲がれば良いの?」  少女は震えた声で俺に尋ねる。 「そうだよ、そこを右折して真っ直ぐ」  俺が答えると、電話はぷつりと切れる。  少女は携帯電話を畳み、俺はスマホをポケットに戻す。  少女が不安げに後ろを振り返る。  俺は少女に見つからないようにと物陰に身を潜める。  そんな俺たちを見る周囲の視線が痛い……というよりこれは、なんというか、生暖かい。  周囲の人々からはきっと娘のお使いを陰から見守る父親に見えているのだろう。俺は子供は疎か結婚もしていない独り身だというのに。  なんともいたたまれない気持ちを味わいながらもう何度かやり取りを繰り返すと、ようやく慣れ親しんだ我が家が見えてきた。  どっと疲れが押し寄せる。  ようやくこのはじめてのおつかいもどきから解放される。そう思うとあと少しの距離も頑張れそうだ。 「私メリーさん、今あなたの家の前にいるの」 「鍵開いてるから、勝手に上がって良いよ」  少女が玄関の扉を開け、家の中に入ったことを確認すると、俺も少女を追って自宅の扉を開いた。  ——おかしい。  嫌に静かだ。  たった今少女が入ったはずの家から、何の気配もしない。  玄関に靴が一足も置かれていない。  スマホが鳴る。 「私メリーさん、今あなたの後ろにいるの」  息を飲み、振り返る。  開け放たれたままの扉の向こうには、人形がひとつ、ぽつんと佇んでいた。
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