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実際、作文というものは基本“ものすごく得意な生徒”と“ものすごく苦手な生徒”の二種類しかいないように思うのだ。苦手な生徒は机に突っ伏して死んでるし、あるいは悲鳴を上げて先生に分かりやすく叱られている。あるいは、もう最初から戦闘放棄して窓をぼけーっと見ている奴までいる始末。小学校二年生に、そんな高い集中力を期待する方が間違っているとも言える。嫌いなものは嫌い、それは仕方ないことなのだから。
で、その時の妹と言えば。意外にも、脱走を図ろうとする様子もなく、じーっと机の上の原稿用紙を見つめていたのである。おやこれは?と僕は驚いた。いつもより彼女が集中できているのが見て取れたのだ。
やがて弥和は、鉛筆を握って文字を書き始めた。今回は得意なお題だったのかもしれない、と僕は少し胸をなでおろしたのだ。同じ作文であっても、やはりお題の難易度によって差は出るものだからである。
「はい、とりあえずみんなそこまでね!」
先生が手を叩いて、課題終了の合図とした。ちなみにここで書き終っていない生徒は宿題確定というわけである。ゾンビになっていた連中や、隙あらば逃げようと考えていたであろう生徒は終わっていたはずもない。出来上がったひとー!と先生が声をかけた時、手を挙げた生徒=終わっていた生徒はクラスの半分ちょっとくらい。僕は驚いた。終わったひと、として弥和が手を挙げていたからだ。
「終わってない人は、宿題です。次の国語の時間までに終わらせて持ってきてくださいね」
先生の声に、終わらなかったゾンビ達からブーイングが上がる。当然、慣れている先生は無視。そして先生は終わった人の中から何人か当てて、何になりたいと書いたのかを尋ねたのだった。
多分先生にとっても、いつも作文が壊滅的に苦手な弥和が手を挙げているのが予想外だったのだろう。新条弥和さん、先生が声をかけた。ちなみにフルネームで呼ぶのは単純明快、兄の僕、新条紀和も手を挙げていたから。基本間違いのないように、僕達双子や苗字が二人以上生徒を呼ぶ時、先生はフルネームを使うのである。
「弥和さんが、なりたいものはなんですか?」
先生の問いに、指されると思っていなかったのか、やや緊張した声で弥和が言った。
「私……フォース・ブルーに変身できるようになりたいです!」
途端。
クラスから爆笑の渦が上がった。クラスのガキ大将キャラの男子が笑いながら言う。
「ばっかじゃねーの!戦隊ヒーローになんかなれるかよー!しかもお前、女じゃん!」
弥和はそんな嘲笑に、俯いて何も返さなかった。妹が馬鹿にされて、僕が黙っているわけにはいかない。その場で口ゲンカが勃発して、先生に叱られたことを追記しておく。
ただ、僕としても疑問であったのは確かだ。
何故彼女は、フォース・ファイブの一人、フォース・ブルーに変身したいなんて言いだしたのだろうか?
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