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岩井翔太
よく知る風景のはずなのに何かが違う。ぼんやりと家までの道を歩きながら、岩井翔太は何度もあたりを見渡した。よく行くコンビニ、スーパー、銀行、それは見慣れた姿でそこにある。高校への通学時に前を通るマンション、それも確かにあるにはある。
けれど。
「……なんか違う?」
あのマンションの壁って白くなかったか?
目の前にあるマンションの壁は薄緑色だ。いつからこんな色だった?
それだけじゃない。見慣れた風景のなか、明らかに「違和感」。
あのマンションの一階は花屋じゃなかったか? いつの間にカフェになったんだ? ここは駐車場だったろう? いつの間にドーナツ屋に? 絶対に、今朝は、こうじゃなかった。いや、今朝っていうか、さっきこの前を通ってあのビルまで来たとき、絶対にこんなじゃなかった。絶対だ。
それになにより。
途中から駆けたせいで息が切れる。
膝に手をあてて肩で息をしながら、翔太は目の前の一軒家を見つめた。
「なんだよこれ」
ここには翔太の住むマンションがあるはずではないのか。
「なんだよこれ、どうなってるんだよ!」
混乱したまま佇む街のなかで、夕焼けがやたら綺麗だと思った。
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