2 ダンサー・イン・ジ・アンダーグラウンド

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 カウンターチェアから周りを見て、ほんとに男ばかりだなと思っていたら、ステージがアナウンスも無く、いきなり始まった。大きな拍手の中、燕尾服の男性5人がスポットを浴びて颯爽と現れ、狭いステージを目一杯使ってキレのあるダンスを見せてくれる。晴也は素直にかっこいいなと感じ、高揚した。ミチルは中央のダンサーが推しらしく、彼に視線を集中させている。  男たちは客席の歓声を浴びながら、袖に引っ込むたびに薄着になって出てくる。ストリップみたいだなと晴也は笑いそうになったが、客席の熱気が異様に高まり、ミチルはビールにも手をつけず食い入るような目になっていて、やや引いてしまった。  客席の浅ましさをよそに、男たちは美しい肉体を惜しげもなく晒し、最後にはネクタイに黒の短パンだけという滑稽な格好で、しかし極めて優雅に力強く踊っていた。一糸乱れぬ動きが美しく、見惚(みと)れる。  晴也は5人のダンサーの中で、自分たちの席に近い側、つまり上手(かみて)から2番めの男性に自分の目が行くことを自覚した。5人の中で一番背が高い訳でも、筋肉量が多い訳でもない。しかしすらりとした肢体が艶めかしく、空気に支えられているような足(さば)きのダンスが魅力的だ。一人だけ黒い髪なのも、派手な髪の色をした他のダンサーの中で清潔な色気があり、逆に目を引いた。  音楽が華やかに最後の和音を鳴らし、男たちがそれぞれポーズを決めると、会場は拍手と口笛で大騒ぎになった。晴也も大きな拍手を送る。こんな引き込まれる舞台を観たのは初めてだ。ミチルに至っては、頬を上気させて目を潤ませていた。 「ああもう俺、一晩中抜けるわ……」  それはないと晴也は苦笑しながら、ビールのおかわりをオーダーした。興奮して喉が渇いてしまった。  ダンサーたちはシャツとズボンをきちんと身につけてから、順番に客に挨拶して回っていた。まめだなと感心する。 「ユウヤ、今日もカッコよかったあ」  ミチルは中央でショーを引っぱっていた推しダンサーがやって来ると、彼にしなだれかかりそうな勢いで言った。ユウヤと呼ばれたダンサーは、みちおさん⁉ と小さく叫んだ。 「えー、今日はミチルだから……1時間早くはねたから間に合ってチョー嬉しい」 「何か美人たちがいるからびっくりしました、ほんとに女装バーでお勤めなんですね」  上手から2番目の黒髪のダンサーがこちらにやって来た。晴也はどきっとする。 「えっ、みちおさんなんですか? うわぁ、予想外に美人……そちらは同じ店のかた?」 「ショウも口が上手くなったな、彼は大型新人のハル、可愛いだろ?」 「うん、この辺の店の女の子に負けないね……はじめまして」  晴也は上手から2番目、ショウに笑いかけられてどきどきした。こんな整った顔立ちの男を、見たことがなかった。ミチルと一緒に、ユウヤとショウに店の名刺を渡す。 「めぎつねって店の名前が好き」  ショウは二人の名刺を見て笑った。ユウヤは何曜日にいるの? と訊いてきた。 「俺は水木、ミチルさんは火水木です」 「週の中日にきれいな子を持ってくるとかママやり手? みちおさんは知ってるけど俺たち水金に出てる、金曜は女性客もいるから脱がないよ」  なるほど、ミチルは普段金曜に来ているからこんなに興奮しているのか。 「凄くかっこよかったです、また観に来ます」  晴也は素直な感想を述べた。ショウが嬉しそうににっこり笑い、その切れ長の目が細まって白い歯が口許から覗く。晴也の心臓がぴょこんと跳ねた。  今日はお店でお客さんとも良く話せたし、イケメンダンサーに名刺を渡せて、本当にいい日だった。晴也はビールを飲みながら、ステージの熱気の余韻と、どきどきする自分を楽しんでいた。
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