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「今、どこにいるの?」
電話をかけてきたのは、つい先日別れたばかりのヒナミだった。
「……なんでそんなこと聞くんだ?」
「なんでって……わからない?」
まずい。
そう直感が告げる。
スマホ越しなのに、ヒリヒリするような冷たさが漂ってくるかのような錯覚に陥った。
「別に、どこだって、いいだろ」
答えずに、うやむやに突っぱねようとしたが、俺はもうこの時点で、うすうす勘づいていた。向こうは、俺が今どこにいるのか、見当がついていて、あえて訊いてきているのだということに。
「よくないよ?」
ヒナミの、冷たい声の響きに、どくんと脈拍が上がる。
「部屋に、いるんでしょ?」
やっぱり。
これは、――だいぶ、まずい状況だ。
たった今、扉を開けて入ってきたばかりで、まだ照明もつけていないというのに。
外の夜闇と同じ、暗い部屋の中。
寒くもないのに、身体はすうっと血が凍ったかのように冷え、その一方で、汗が浮き出てくる感覚があった。
ヒナミはすでに、すぐ近くまで、来ている。
いや、もしかすると、俺がここに来る前から――待ちぶせていたのか。
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