一.

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一.

 (いな)、真に呪うべきは、中学三年の秋、修学遠足にての、私の(あやま)ち。  その日、私は一人、市のはずれ、県境をまたぐ山の(しげ)みを()き分けながら、呪術に用いる野草などを探していた。 「うん? ……これは……まさか伝説の……!」  (こけ)むした地面から姿を(のぞ)かせている、茶黄(ちゃき)に輝き傘を持たない数センチほどの菌類に足を止め、素手で掘り返し始める。 「やった……冬虫夏草(とうちゅうかそう)だ……! 初めて見るけど、かっこいいな……」  地表からすぐ下、菌類の根本には、生きていた頃の原型を保ったまま寄生され苗床(なえどこ)となった、()の幼虫が現れた。  その背から数本の子実体(しじつたい)を伸ばしている(からだ)をそっとつまみ上げ、しばしうっとりと眺めた後、私はそれを(ひつぎ)のような小箱に安らかに寝かしつけて(ふた)を閉じ、立ち上がった。 「この山……もっと早くに(おもむ)いていれば良かった」  ハイキング用の山道からは(すで)にかなり離れているらしく、ただ時折の風が木立を揺らし響く葉音以外には何も聞こえない(りん)とした空間に、私は常ならぬ安らぎと高揚を得ていた。  あの向こうなどますます陽の当たらない北斜面、ベニテングタケやら、事によるとカエンダケなども手に入るかも知れない。 「く、く、く、中学卒業までにシャーマンになるという目標、達成できるやも知れんな」  ほくそ笑んだ私は、羽虫の飛び交う道なき道を、さらに薄暗い森の奥へと歩み始めた。  やがて幾刻(いくとき)が過ぎたか、日常の範囲では見かけることの無いキノコや薬草、虫やイモリなどを手に入れ、昂揚(こうよう)(おさ)え切れぬも、 「……やはり採取すべきだったか……?」  ()い出した茂みを名残惜(なごりお)しげに振り返る。 「いや、私にトリカブトはまだ早い……。まぁいい、いずれ時が来たらまた来るとしよう。しかし……ここはどこだ? 山の反対側に来てしまったのだろうか」  深い山中にも関わらず、そこは人の手により地面がならされた広場だった。
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