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第390話 求愛 其の九
真摯な顔付きで自分を見てそんなことを言う竜紅人に、どくりと香彩の心の蔵が高鳴りながらも、鼻の奥がつんと痛んだ。思わず視界を遮ってしまうような、溢れ出してしまうような、心の奔流を何とか堪える。
「りゅう……だけどもう、竜核は……」
「──安心しろ、ちゃんといる」
「え」
「いる、ちゃんと。──確かにさっきまでぼやけたような感じだったが、今はちゃんと真竜としての『個』を感じる。まだ少し熱が足りないみてぇで、栄養補給は必要そうだけどな」
「……なん、で……」
「あ?」
今度は竜紅人がきょとんとした表情で香彩を見た。香彩もまた竜紅人が、どうしてそんな表情をするのか分からずに呆然とする。
「聞くがその『何で』は、どうしてあいつ等が『ちゃんといるのか』の『何で』なのか?」
竜紅人の言葉に香彩がこくりと頷く。
「僕が竜紅人から離れようとしたから、縁が……貴方との繋がりが足りてないって、だから……!」
特に繋がりの深い桜香は卵殻膜すら出来ていないと言われた。それがどうして急に真竜の『個』を感じるまでに成長したのか、香彩には分からなかったのだ。
困惑する香彩の様子を見た竜紅人が、もう幾度目になるのか分からない、大きなため息をつく。次第にその大きな息は、くつくつとした笑い声に変わった。
「本当に『何で』なのか分からないか? かさい」
何故竜紅人が笑うのかも分からなくて、香彩はそのことにも困惑する。
「……人形の俺を見てお前は逃げたが、理由は俺に嫌われたくなかったから、だろう? 今も少し逃げようとしているけれども、心の奥底は真っ先に俺に向き合ってる。お前が俺から離れる選択を無意識に捨てた時点で、縁は、繋がりは深くなるのは当然だとは思わないか?」
「──っ!」
それの意味するところなど、ただひとつしかない。
香彩は赤らめた顔の上に、更に朱を走らせた。耳までも熱く、そして赤くなった気がして恥ずかしくて堪らない。
思わず竜紅人から視線を逸らせば、窘めるようにこちらを向けとばかりに名前を呼ばれる。
伽羅色の奥にある怒りの焔は相変わらずだ。だがそこに色と甘さが乗っていることに気付いてしまって、どうしようもない気持ちになる。
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