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第391話 求愛 其の十
「あと前にも言ったけどな、お前が自分のしたことを話す度に、お前の無意識の『俺のことが好きで堪らない』を聞かされる、こっちの身にもなってくれ香彩。──これは仕返しのようなもんだ。夢床の俺はどうやら信用がないみたいだしな。だから……もう一度言う」
「……!」
更に毅さの増した伽羅色の瞳に、香彩は再度、唾を飲み込んだ。こくりと鳴る音がやけに大きく聞こえる。
足を崩した香彩は、竜紅人に気圧されるように、再び座りながらじりじりと後退りをした。だがすぐに背中が休憩処の木壁に付いてしまう。
先程まである一定の距離を開けていた竜紅人だったが、今度は香彩の傍に座った。そうして逃げるなと言いたげに、香彩の顔のすぐ横に片手を付く。
とん、音を鳴らす木壁に、香彩は息を詰めた。
たった一本の腕がまるでもう、どこにも逃げることの出来ない、愛しい檻のように思えてくる。
かさい、と竜紅人が呼ぶ。その声はいつもよりも更に低く、甘く耳に響いて、ぴくりと肩が震えた。
「……お前がどんな目に遭おうとも、どんな風になろうとも、泣いて叫んで頼んでも、俺はお前から離れない。離さない。たとえ逃げても狩猟本能でどこまでも追い掛ける。『好き』を怖いと思える暇などないくらいに。俺に嫌われたらなんて思う余裕などないくらいに。そして俺の身体を忘れられなくなるくらいに、どこへ行っても何をしてても思い出して疼いてしまうくらいに、お前の身体に俺を刻み込む。──夢床で俺が言ってたことはお前の願望だけじゃねぇって、理解したか?」
「──っっ!」
思わず上がってきそうな艶声を抑えるために、香彩はぐっと奥歯を噛み締めて、自分の口を手で覆う。何もされていないというのに、竜紅人の言葉を声を聞くだけで、身体は素直に反応を示す。
(……だめだ、こんなの……)
言葉で愛撫をされてるようなものだ、そんな不埒なことを考えてしまう。
仕返しとはそういうことなのか。
瞳に恨みがましい感情を込めれば、やはり色々とお見通しなのだろう。竜紅人がくすりと笑った。
「後は何だ? 『蜜月に何も出来なかった』と『お前の不注意で、お前の身体が俺だけのものじゃなくなった』だったな」
「……りゅう、それ! ひとつずつ……!」
「──ああ。言ったろう? お前を口説き直すって。竜核がある程度成せた時点で、答えは出ているんだろうけど、なんせ無意識だろうしな。だから俺から離れようとした原因をひとつずつ潰して行けば、もう理由がなくなるだろう?」
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