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第397話 竜の寵愛 其の四
「……はっ、は……っ」
刹那の内に頭が真っ白になる。
香彩の身体から御手付きの香りが、ぶわりと溢れ出して真竜の香気を押し返すが、快楽の境地に達した香彩は、なかなかその場所から降りることが出来ないでいた。
短く息を吐きながら息を整えようとする。だが後から後から襲い来る細やかな法悦に、整えることもままならない。呼吸によって上下する身体の動きにすら感じてしまって、香彩は無意識の内に竜紅人の腹に若茎を擦り付ける。それはまるで彼の腹筋の割れ目を使って、淫らにも自慰をしているかのようだった。
そうして幾度か彼の腹部に残精を吐き出すと、香彩の意識は唐突に現実に戻って来る。
「──っ! やだ……こんな……っ」
どうしようもなく居た堪れない気分になった香彩は、両手で顔を隠した。
竜紅人が普段から着ている衣着に、自分の白濁が散っている。衣着に染み込んで線を描いた様な痕が出来ていたが、一部の白い凝りはまだ彼の衣着の上で膠質状に残り、ふるりと震えていた。その光景が脳裏に焼き付いて離れない。まだ接吻だけで、竜紅人に何かされたわけではないのだ。発情の香りだけでしかも竜紅人の上に跨りながら、彼の目の前で達したことが恥ずかしくて堪らない。
分かっていたはずだ。自分の身体がこんな風になることは。
蒼竜屋敷に入った途端に襲われた、あの途方もない法悦を知っていたというのに。
「汚しちゃ……っ、ごめんなさ……」
「──かさい」
耳元で囁かれるのはひどく甘い竜紅人の、一段と低い声だ。
背中に回る腕にふわりと優しく抱き締められる。慰めるかのように耳輪を軽く食み、耳裏に鼻を擦り寄せながら、竜紅人が自分の為の匂いを大きく吸って堪能する。
そして言うのだ。
かわいい、と。
「……かわいい、かさい……」
「……っ」
竜紅人がまるで宝物にでも触れるかのように、香彩の背を撫でる。
かさい、と。
呼ばれるその響きが、この世の何よりも甘く感じた。想いをたくさん籠めた低い響きに、背筋をぞくりと粟立つものが駆け上がる。とても恥ずかしい思いをした。だが彼が自分の名前を呼ぶことが堪らなく嬉しかった。
「お前の白濁で汚されるなら本望だ。蒼竜屋敷へ来た時も、こんな風に愛らしく達しながら、蒼竜のところへ来たんだな、かさい」
「──なん、で知っ……、あ……はっ」
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