国威発揚の役者

「今どこにいるの？」
「○○公園で散歩してる。今、7259歩」
「今日の目標も8000歩？」
「そう」
「じゃあ、もう直ぐ帰って来るのね」
「ああ」
「分かった。じゃあ、なるべく早くね」
「ああ」
「じゃあ、切るね、ダーリン！」
「うん、ハニー！」
　スマホの受話器マークをタップして電話を切る俺。それにしてもスマホも凄いけどスマートウォッチって凄いよな。歩数だけじゃなく体温も血圧も心拍数も血中酸素も測れるもんな。而も普通の時計より安かったりしてさ。それはとっても結構なことなんだけどさ、ホームレスの青テント見ると、悲しくなるよな。しかし、この暗いご時世で、やるからには楽しみたいとオリンピック選手の誰もが言うんだ。敢えてそう言う気持ちが分からん。その陰で苦しんでる人々がいるんだぞ。それを尻目に楽しむって言うんか。まるっきり苦しんでる人たちに対して配慮してないと言える。自分さえ良ければ良いのか。そう自覚もせず寧ろ自分が活躍する姿を見せることによって苦しんでる人たちに元気を与えることが出来、勇気を与えることが出来ると身勝手に人の役に立ってる積もりになって自己満足してんだろ。ボランティア活動する者が良い人になった気分になって自己満足するように。
　苦しんでる人とはここにいるホームレスを始め金が無いとか仕事が無いとか苛められてるとか仲間外れにされてるとかコロナ感染してるとか、そういう人たちのことを言うのであるぞ。この貧富の格差を拡大させた政府が支配する世の中に於いて不満を抱かない富裕層を始め生活にゆとりがある人間や悪政を知らない子供ならいざ知らず、オリンピック選手が活躍する姿を見て元気がもらえると思うか？勇気がもらえると思うか？それどころかコロナ禍なのに安部の都合で無理に開催したオリンピックは、一年延期による追加費用や杜撰なコロナ感染対策の費用の拡充など公的支出を計上した結果、巨額の赤字を生み、国民が税金を払って埋める破目になって結局の所、感染者を増やすことになったんだからオリンピックなんか止めろって反感買うよ。まあ、宿貸してくれるとか金くれるとか仕事くれるとか苛めから助けてくれるとか仲間になってくれるとか感染症を治療してくれるとか、直接そうしてくれるのなら別だが、勿論そうしてくれる訳じゃないから元気も勇気ももらえる訳ないだろ。寧ろ妬むだけだ。
　それにだ、平和の祭典とは名ばかりで国威発揚の大道具として利用されるようになったオリンピックに於いてメダルを多く獲得した成果は、手放しで喜べるものではないのにインタビュアーと共に手放しで喜んで皆様のお陰ですと礼を言うオリンピック選手を見ると、確かに皆様のお陰なんだけどなとシニカルに思う。それと言うのが零細企業は援助しても無駄、そもそも存在自体が無駄だとして潰れても構わないとばかりにほったらかしにする代わりに政治献金してくれたり組織票で選挙に勝たせてくれたりする大企業には金が回るようにする国の政策と同工異曲でスポーツエリートにメダルを獲らせようと集中的に支援するのは、そのオリンピック選手の為と言うより国威発揚の為である上、支援する際に発生する経費は税金として国民が負担している、その事実も知らずに皆様のお陰ですと礼を言っているからだ。
　だからメダルを獲った選手が努力の賜物ですなぞと自画自賛するのを見ても君も国威発揚の役者にされているのだよと皮肉りたくなる。そんな俺は単なる皮肉屋でも捻くれ者でもないのだ。
「只今！ハニー！」
「お帰りなさい！ダーリン！」と俺の帰りを待ち侘びた可愛い奥さんが迎えてくれるのだし・・・その妻が毎日野菜料理作ってくれて野菜を一杯摂り、毎日8000歩、散歩するようになってから毎日晩酌しても高血圧だったのが嘘のように血圧が正常値になったんだ。それが勿論スマートウォッチで分かったんだ。
「今日も酒も肴も美味いよ。ハニー！」
「ふふ、そ～お、ダーリン！」
「何たって金メダル獲って喜んでるオリンピック選手を見ながらでも美味いからなあ」そうテレビを観ながらシニカルに言う俺。「やっぱりハニーに酌をしてもらってるからかな」
　うふっと色っぽく笑う妻。語るに足る。分かってらっしゃる。