恐い

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 妊娠しているかもと父に告げた時、父は何も言わないで産婦人科に連れて行ってくれた。 「…………産みたいなら産みなさい」  その言葉をどんな気持ちで口にしてくれたのか。  目を合わせてくれない父を見ながら中絶はもうできないと言われた診察室の扉をぼんやりと見つめる。 「相手には伝えられるか?」  言われても下を向くことしかできなかった。 「……愛那(まな)、仕事は辞めろ」 「それは無理!」 「お前はまだ19だ。同級生だって親に全てをやってもらって遊んでる子も多いだろう?なのにお前は……」  受付から声が掛けられて父が口を閉じて立ち上がる。 「帰るぞ。立てるか?」  手を伸ばされて躊躇っていると、父は私の手を掴んで立たせてくれた。  無言で手を引かれながら車まで行って、そのまましばらく無言で父は車を走らせていく。  私はただ黙って後部座席から運転する父の後ろ姿を見つめていた。
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