流れ星は願いが叶うサイン

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 常盤と初めて会ったのは、ベンチャー企業が集まって、新技術や新ビジネスを投資家にアピールする展示会場だった。 ――宇宙ビジネス構想を展示する我が社のブースに、常盤は来た。 「こんな事業、億単位じゃ無理だろう。数十、数百億円は必要なんじゃないか?」  元気いっぱいにアピールしていた小夜に向かって、常盤が吐き捨てた。  あの時、法務局への会社登記こそしていたが、事業らしいことが全く出来ていなかった。  国や自治体のスタートアップ支援を受け、クラウドファンディングもして資金を調達していたが、目標とする額には、遠く及ばない状況だった。 「ワシが、投資してやろうか。ただし、条件がある」  常盤の条件とは、小夜に愛人になれというものだった。腕を掴まれた小夜は沖広に助けを求めたが、沖広はあんぐりと口を開き、目が泳いでいた。 「受け入れるなら、一千億円、出資してやろう」  その額に和泉は息を飲んだ。喉から手が出るほど欲しい。  小夜は怯えるように髪を振り乱し、常盤の手から逃れようと腰を引いている。  小夜がわが社のビジネスで役立つのはこれしかないのではないか。うってつけの役回りでは無いのか。  このチャンスを逃す手は無いと、小夜に生贄になるように言おうと立ち上がる。  和泉は、自らのことを非情だと思ったことは無かったが、この時ばかりは、引導を渡す気でいた。 「やめてあげてくれ。可哀そうじゃないか。この話は聞かなかったことにしようよ」  和泉は、沖広に手首を掴まれていた。沖広の目は潤み、苦虫を噛み潰したような顔をしていた――  和泉は、リビングに転がるゴミ袋の一つを開けた。中には、男物の下着や靴が詰め込まれている。全て常盤のものだ。  人生のターニングポイントを噛みしめつつ、折れた歯ブラシをゴミ袋に投げ入れ、再び袋の口を縛った。 ――和泉は、展示会場では常盤の申し出を断ったが、後日、再び会って、自らの身を差し出していた。沖広や小夜には内緒で。  支援額を半分にされたことは、女としての価値を値踏みされた結果なのだろうが、受け入れざるを得なかった。悔しい思いはあったが、半額だけでも、運転資金が欲しかった――  今夜は、もう少し酔いたい。  空になったグラスにワインを注いでいると、カバンの中のスマホが鳴った。分厚い書類を取り出し、底に埋もれていたスマホを手に取る。沖広から『たった今、地球に帰還したよ。ミッションコンプリートだ』というメッセージが届いていた。  テーブルの上に放り出された書類は、先週、沖広に渡した新しいビジネスプランのコピーだった。  それを手に取る。  宇宙ステーションへの観光ビジネスを計画する裏で、密かに練っていたプランの詳細が記されている。  このプランは、まだ、和泉の他は沖広しか知らない。  そのコピーの表紙には、『殺人ビジネス“流れ星”プラン』と書かれていた。
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