呪われた少年

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 三人は施設内の廊下を進み、ある部屋の前で立ち止まる。部屋は小学校のように、教室と同じ作りになっていた。  六席の学校机が、横一列に並んでいる。窓側の一番端の机に座る一人の少年が見えた。スケッチブックに絵を描いている。 「それでマザー、どんな風に様子がおかしいのですか?」  猪熊が訪ねる。 「暴れたり、暴力を振るったりはしません。ただ、あの子と話をしていると、心の中を見透かされているような気持ちに、私たちがなるのです」 「それだけ?」 「上手く言えないですが、こちらの気持ちを読んで先回りしたり、修道女の中にはあの子に操られたと云う者もいます。恐らくあの子は呪童(じゅどう)」  猪熊は、教室と廊下を仕切る壁の、硝子窓から教室の中へ視線を移す。 「呪童……ですか。それは呪われた子供、という意味ですか」  マザーは、身震いを堪えるように腕を掻き抱いた。 「いいえ。呪童とは決して呪われているとは限りません。言い伝えによると、千年に一度、突如現れる不思議な力をもった子供だそうです」  猪熊は、嘲笑うように、僅かに口角を上げる。 「じゃあ、千年前にもそういう子供がいたということですな」 「ええ、そうです」 「ほう!」マザーが迷い無く肯定したことに、猪熊は意外だという顔をする。 「安倍晴明ですよ」  マザーの突拍子もない発言に、猪熊は声を上げ笑った。猪熊にとって、呪童の意味はどうでもよかった。猪熊が信頼するマザーの、オカルト染みた発言に興味が湧く。 「しかしマザー、どうしてそんな伝説じみたことをご存知で?」 「私の祖父が寺院の住職をしているの。その寺院に古くから伝わる経文があり、そこに記されているそうです。私は読めないので、祖父から聞いた話ですけどね」  猪熊は大きな顎を擦り、暫く少年を見つめる。マザーの話と、目の前の少年の様子と、長年の経験とを照らし合わせ頭の中で思索していた。 「にわかに信じがたいですな。あの子と話しても?」 「えぇ、構いません。そのために貴方に来ていただいたのですから」
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