エピローグ.鬼の閻火とおんぼろ喫茶

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 藍之介に促され風子が向かった先の玄関から、二人のお客様が入ってくる。  私より小柄でふっくらとしたおばさんと、藍之介と同じくらいの背丈で細身のおじさん。  見覚えのある二人に、思わず手にしていた雑巾を床に落とした。 「わあっ!? お、おばさんに、おじさんまで!」  同郷の友達と再会を果たすように感激しながら走り寄る。   「ああ、萌香ちゃん、だっけなぁ? あん時は名前も聞かずに帰しちまったから」  十勝の牧場にいた時とは服装が違うので少し考える時間があったけれど、朗らかな雰囲気と優しげな目尻ですぐに判断がついた。  二人ともあたたかそうなダウンコートに足首までのブーツを履いている。頭にかぶっている帽子は手編みだろうか、似ている形とデザインが微笑ましかった。 「どうしたんですかこんなところまで、名前も」 「娘がSOSっていうのか、あれであんたの店を見つけてね」 「母ちゃんSNSだべ、SOSじゃ助け呼んじまうべよ」 「ああ、そうだったべか」  仲睦まじい夫妻の何気ないやり取りが笑いを誘う。 「東京で法事があったから来たんだけんど、そんならここに行ってみればって言われてね、たどり着けてよかったべ」  どうやら美月さんの紹介を見た娘さんから勧められて来てくれたようだ。  私の名前は店主として掲載されていたのでわかったのだろう。  つけっぱなしだったエプロンのおかげで、みんな店名を覚えてくれていたようだ。 「周りの店の人に聞いたらここだって言われたもんだから。店の名前が変わってたから間違えたと思ったべ」 「……そうなんですよ、この十二月から新しくしたんです」  十一月をもって〝喫茶、柚子香〟は終了した。  いや、生まれ変わったのだ。  おばあちゃんの遺言書には、あなたの店としてやっていきなさい、と示されていた。  おばあちゃんとの思い出を胸に、門出を迎えた私たちの大切な店。  閻火には「自分の名前をつけなくていいのか?」と言われたけれど、私は迷いなく「いいの」と頷いた。  それに基づき、看板やエプロンの文字も変わっている。
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