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二人を奥の席に案内すると、窓から見える雪はみぞれになっていた。雨が近いかもしれない。
以前もらった乳製品のお礼を改めて伝えると「あんなんでよければこれから送るべよ」と機嫌よさそうに言ってくれた。
二人は脱いだ上着を椅子の背にかけ、荷物を足元にあるカゴの中に入れると向かい合う形で着席した。
そしてメニューを開いたおじさんがコーヒーの欄で動きを止める。
「これはどういうことだべ? 自分でコーヒーが淹れられんのか?」
おじさんが指差したのは、コーヒーの写真横に書いてある台詞だ。「よかったらコーヒー体験してみませんか? お気軽にお声がけください」なんて文字が堂々と綴られている。
「そうなんです。喫茶店やってるくせにいまいちコーヒーに自信がなくて。なので我こそはという方はぜひ」
「へー、面白そう、あんたやってみたら? 牧場してるくせにブラックコーヒー好きなんだしさ」
「いやあ、そんな本格的には……どうだべなぁ」
おばさんにからかうように言われたおじさんは、困りつつもまんざらではなさそうだった。
こんなふうに会話のきっかけになるだけでも、嬉しいなと私は思う。
「今日は特別にいちごたっぷりのシフォンケーキもご用意してますからねっ」
「……それってショートケーキとなにが違うんだべ?」
「んだな」
「え!? ええっと……」
そう言われるとうまく切り返しができない。
まだまだ修行が足りないなと苦笑いを浮かべ頬を掻く私に、二人は陽気な顔を見せてくれた。
おばさんがハヤシライスの大盛りを、おじさんがナポリタンの小盛りを。注文を承ると軽く頭を下げ、キッチンに向かうために身体の向きを変える。
「うう〜ん、猛烈な美味です、何度食べても素晴らしい……!」
ほっぺたが落ちそうだと言わんばかりに、とろけた表情を見せながらオムライスを口にする美青年。
胸のバッジをそのままに、今日もエメラルドグリーンの正装でパリッと決めた彼はカウンター席に居座っていた。
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