エピローグ.鬼の閻火とおんぼろ喫茶

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 店内を見渡すおばさんが「この店イケメンばっかだべなあ」とつぶやいたのは置いておこう。    「お前は毎日毎日飽きもせずに、よくこの店に来てくれるな」  カウンターに立った閻火が、嫌味を込めて睨みを利かす。  けれど桃源はそんなことおかまいなしに幸せそうにスプーンを進める。   「萌香さんのケチャップべちゃべちゃのオムライスにハマってしまいまして……ご飯の部分までケチャップの量を追加できるだなんて最高ですよぉ」  毎日ランチタイム開始時に現れ、閉店の夕方まで何回もおかわりしてやっと帰る。  そしてまた次の日にやって来るの繰り返しだ。  そんなわけで嫌でも同じ空気を吸わなくてはならない状況が続き、いつの間にか鬼たちは桃嫌いを克服しつつある。  最初は鳥肌が立ったり顔が青くなったりと大変だったけれど、今はこうして間近で目を合わせて会話ができるまでになった。  食器の手入れをしている藍之介も、カウンター越しに桃源がいてもずーっと平然としている。二人とも荒療治が効いたようだ。  私もキッチンに戻ると、おばさんたちが注文した料理に取りかかる。  風子はおしぼりと水をトレーに載せ運んだついでに、世間話を楽しんでいた。 「ここに入り浸り職務を放棄していればただでは済まないだろう」 「でしょうねえ」  桃源はクリームソーダで口内を潤すと、指先で摘んでいたストローでグラスの氷をくるくるかき混ぜだ。 「天国での暮らしも飽きてきたので私もこちらにお世話になろうかと……萌香さん、もう一人従業員はいかがですか?」  まさかの申し出に食材を切る手が滑りそうになる。  私が返事をするより先に、隣に立った閻火がぷるぷると身体を震わせていた。 「いらんに決まっとるだろう! さっさと帰れこの黄桃頭!」 「尖りもありませんし獣にもならないので、私の方が人間らしいと思うんですがねぇ」  冷静に考えてみると相当危ない会話だ。  今は空いていておばさんたちも風子が接客中なので助かった。  真剣に耳を傾けたところで間に受ける人はいないと思うけれど。  桃源はよくも悪くもマイペースな性格らしい。
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