始まりの島イチゴジャムトースト

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「ここ、交通アクセスが悪いですもんね。まず近くの島まで飛行機で、そのあとは船だし……港から中心街までも、ちょっと距離があるし……」 「この町には、今、何人くらいが暮らしてるのかしら」 「50人もいないんじゃないでしょうか……引きこもってる人もいるので、全員とまだ挨拶はできてないんですけど。でも昔からこの島で暮らしてた人は、居ないみたいです。皆、ここ数年で越してきた人ばっかり」  非適合だった人、宇宙移住の反対者。何かの事情で宇宙に行けない人。  そんな人々を、政府はできるだけ一つの場所に集めようとした。  工事や配給の問題もあるのだろう。ここ、海側町もそんな地域の一つだ。  国内の色んな所で暮らして居た人達が、今はまるで家族みたいに一つの島で暮らしている。 「そう……昔は何百人も居たのだけど、皆、宇宙に行っちゃったのかしら」  亜美は周囲を見渡す。  遠くに低い山がある。  青空があって、乾いた田圃の向こうには原生林みたいな森もある。 「あの森……中にね神社があるの。かわいい狛狐がいたような……」 「今もありますよ。名前も知らない神社ですけど、皆で定期的に掃除してるのできれいです。夏祭りなんかも、するみたいで」 「じゃあ、その向こうの山をこえたところは……」  山の向こうには、海が広がっている。 「ええ、きれいな海です」  そう言うと、斉藤は小さく息をはく。  島は一周で40キロほどあるが、森と山が浸食しているせいで人が住める場所は中心街だけだ。  昔は整備されて美しい田舎町だった……と亜美は記憶している。  しかし、人々が宇宙を目指し始めた頃から、島から人が消えた。皆がこぞって都会に出て適合の検査を受け始めたのだ。  受かった人はそのまま都会に残り、移住の順番を待つ。落ちた人々もまた、適合手術を受けるために都会に移り住む。都会に出た人たちは、もう帰ってこない。
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